日本近代史理解のための鍵の一つ
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中国が近代に経験したことを、アヘン戦争から中華人民共和国の成立と初期の統治まで記述した著作。事の経緯がうろ覚えだったのを古本屋で現物を目にしてから気づき、手にとってみたが、読んでいくととても考えさせてくれる一冊だった。
内容は、一言で言えば過去に恣にした栄光を悉く失っていく過程であり、その末に再起を期して復活していく過程でもある。帝国主義的侵略とはこういうものかというイギリスのやり口は19巻「インドと中近東」でも触れられているがとんでもなく苛烈で無情なもので、日本の幕末の志士や明治政府の創建者たちがあんなにも必死に日本の近代化を急いだのがよくわかる。外国勢力の侵食に立ち向かおうとする人たちもいろいろな形で現れたが、「分割して統治せよ」式で互いに反目する羽目になり、地方に割拠する勢力が内戦状態に陥る中で、放置されていた貧農の支持を取り付けた共産党が最終的に統一を成し遂げるという流れを、著者の主観よりも実際の出来事を多く取り上げて収録している。
この時代の中国の出来事は途中まで日本での出来事と表裏一体で、ある時点から両国は互いに関係当事国になっていく。その意味で、中国の近代史は日本の近代史を理解する大事な鍵の一つに違いない。その理解の第一歩としてこの文庫は使える一冊だと思う。