おやすみ、リリー (ハーパーコリンズ・フィクション)
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その日が来ることを、ぼくは認めたくなかった――老犬を、見おくる、ということ。
たくさん泣いたあと、心の温度が3度上がる本。
12歳のダックスフント、リリーと二人暮らしのぼく。
ある日、ぼくはリリーの頭に小さなタコが張りついていることに気付く。
その日から、あたりまえの日常は終わりをつげ、帽子のような“それ”とリリーとの奇妙な生活が始まる。
日に日に弱ってゆくリリーのそばで、ぼくは彼女を守ることを誓う。
でも、本当はわかっていた。その日が来ることを、ぼくは認めたくなかったのだ――
いきなり白状しよう。小説の翻訳の仕事をはじめて二十年近くになるが、訳出作業の途中で涙がこぼれたことは二回しかない。
一回目は、エラリー・クイーンによる名探偵ドルリー・レーン四部作の最終作『レーン最後の事件』のラストを訳していたとき。
そして二回目は、この『おやすみ、リリー』だ。どの場面だったかは、あえて書くまい。実は何か所がある。
悲しいというより、命の尊厳、そして生きることにまつわる真実の核心に突きあたった気がして、涙が止まらなくなった。
犬も猫も飼ったことのない自分がそんなふうになるなんて、まったく思ってもみなかった。
そういう作品、自分にとって記念すべき作品を訳す機会が久々に訪れ、日本の皆さんに広く紹介できることをうれしく思っている。
(訳者あとがきより)