知をめぐる5W1H
★★★★☆
本書の原題は"A Social History of Knowledge: From Gutenberg to Diderot"。
「知識の社会学」研究の系譜を説くにはじまり、本書が射程とする「グーテンベルクからディドロに
いたる世紀」、すなわち「1450年頃のドイツにおける活版印刷の発明から、1750年以降の
『百科全書』の刊行までの時代」において、誰がその「知識」を発見、生産、普及してきたのか、
あるいは、どこで「知識」は形成されてきたのか、そして、その「知識」はどのようにカテゴライズ
されたのか、そうして邦訳副題の示すように「知識」がいかにして商業コードに乗せられたか、
などを論じた一冊。
それこそ巻末の索引が示すように、近世、近代の学問領域の重要人物がこれでもか、と
登場する一方で、名もなき民衆の「知識」もまた、本書の射程となる。
本書の長所でもあり、同時に短所ともなるのはその情報量の過多にある。
非常に読みやすく配慮された本ではあるのだけれども、それこそわずか数行のさりげない
記述をテーマにいくらでもテキストが飛び交っているような主題であるだけに、参照文献などを
鍵にさらに手を広げなければ、と個人的にはどこか欲求不満との思いに駆られてしまった。
言い換えれば、読書案内、あるいは知識への招待としては絶好の一冊。
待っていました、助かります、基本的な研究で・・・
★★★★★
イギリスの高名な歴史学者による知識論の実証的社会史ともいうべき著作であり、情報理論やメディア論を親炙している方や哲学研究者には、data, information, intelligence, knowledgeの関係性を明確に区別するための実証的史実を開示しており、実に刺激的な研究である。主として欧米の史実で議論を展開しているが、中国や日本の史実も多数援用されており、歴史学者らしい包括的な視点には学者としての客観性へのバランス感覚に学的高潔を見ずにおれない。知識の時代といわれる今世紀の初頭に訳されたことを喜びたい。訳者に哲学研究者が当ったことは的を得ている。(但し訳者も指摘しているが、多少訳語の不揃いが散見する、固有名詞に限らない。カタログと目録、ビブリオグラフィーと書誌など初歩的な統一が以外に見落とされているが、目くじらを立てるほどではない。)