幕末の東海道の宿場の写真は貴重
★★★★☆
本書は『幕末日本の風景と人びと‐フェリックス・ベアト集』(1987年刊行)に一部加筆・訂正をした新装版です、ということが書かれてあります。ベアトも現在では、フェリーチェ・ベアトと呼ばれていますので。
ベアトは、1825年に生まれ、1863年に来日し報道写真家として数多くの写真を残しました。横浜居留地に写真館も開いています。
掲載の写真の鮮明さを見るにつけ、ベアトの技術水準の高さに感心しました。彼がこれだけの写真を残さなかったら、当時の日本の姿や日本人を知る術が大幅に制限されたことは容易に伺えます。当時生きていた人がまるでそこにいるかのように残っているのも彼の写真があればこそだと思います。
今から約150年前の港町・横浜や東海道の宿場町の風景が写真の数々で現代に蘇ってきます。眺めているだけでその時代にタイムトリップしたかのようです。金沢や鎌倉、箱根や富士といった外国人好みの町は当然として、琵琶湖や瀬戸内海の広島あたりも写し込まれており、ベアトが日本全国を旅したことが伺えます。
長崎や下関といった地方の港町の風景写真も珍しいものですし、当時の庶民の姿もラストに収められています。一部は手彩色されている絵葉書もありますので、現実のものとも幻のものとも判断がつかないような不思議な趣が漂っており、現代人にとってもエトランゼ気分に浸れます。
今から百数十年以上前の日本の姿を知るには古写真をたどるしかありません。当時の文献史料は多く残っていますが、残念ながらイメージがつかめません。その点、写真は全てを瞬時に理解できる貴重な資料だと言えるでしょう。いかに貴重な写真を掲載しているかは、少し見ただけですぐに理解できました。