経済学というより統計学的サッカー分析なのか?
★★★☆☆
色んな方が肯定的なレビューを書いておられたので、相当期待して手にしたが、悪く無いのだがこの本をどういう方にお薦めすればいいのだろうか?はたと困る。サッカーの好きな方、経済学にご専門の方、いずれにも帯に長したすきに短しの感がある。また、経済学といってもどちらかと言えば統計学とか計量経済学の世界でサッカーを分析しているきらいがある。確かに、確率に依拠して説得力のある主張を感じる部分(特に選手の移籍云々に関するあたり)もあるが、本当にサッカー(ないしそれに関わるビジネスなど)は効率的市場仮説のような世界だろうか?バーにあたったシュートがどちらにはねるか(昨今ではどの程度の審判に当たるかなど悩ましい問題もあることも、今回W杯で露呈)など、高度にブラックスワンなのがサッカーの世界だと個人的には感じている。だからこそ、人の心を揺り動かすのがサッカーなのだと思うのだが。
これからもっとも有望なのは日本とアメリカ、そして中国としている予測は、果たして当たってくれるだろうか。
★★★★☆
最近の経済学は、実に様々な領域までも分析している。そして、この本はサッカーである。
表題を見て少し疑問に思ったが、原題は「Why England Lose」であり、本書は日本版のために書き下ろした第2章を表題にしたようである。とはいえ、この国のことを実によく分析している。
よく、組織力を中心に動いているものの決定力不足といわれている日本のサッカーはこの国の文化だといわれるが、まったく当てはまらないという。
かつての弱小国でイギリス人監督やドイツ生まれのトルコ選手を入れて変わったトルコや、韓国、ロシア、オーストラリアを見事に引き上げたヒディング監督を例に挙げる。
むしろ日本の問題は、西ヨーロッパの国々のような国際試合ができにくいことに問題があるという。
そして日本は、西ヨーロッパの監督を入れるべきだと結論づけている。
この章のほかにも、PKは不公平なルールに見えるが勝率では変わらないとしている章や、ワールドカップを誘致しても決して経済効果は上がらない、サッカークラブは儲からないなどなど、経済分析を駆使して、サッカー界の常識を覆していく。
また、1872年から2001年までの2万という実に多くの国々の多くの試合を分析して、サッカーの強さを決めるのは、人口、国民所得、国際試合の経験だという。
このため、最終章でこれからもっとも有望なのは日本とアメリカ、そして中国としている予測は、果たして当たってくれるだろうか。
データで通説を覆す「ヤバい経済学」のサッカー版
★★★★★
たとえば4‐2‐3‐1―サッカーを戦術から理解する (光文社新書)のような戦術論の本とも、決戦前夜―Road to FRANCEのような人間ドラマを描いた本とも違うけれど、サッカー好きなら万人に薦めたいサッカー本。少なくとも自分の知るかぎり、まったく新しいタイプのサッカー本(それは違う、こんな本もあるという人がいたら、教えてほしい)で、知的好奇心を刺激する読み物だった。ワールドカップの前でも後でもいいから、ぜひ読んでほしい(ちなみに、ワールドカップ前に読んだ自分としては、イングランドではなくアメリカに賭けようか、なんて思ってしまうのだけれど)。
この本は、端的にいえば、経済学の手法を駆使してサッカーの世界を見た本、ということになるだろうか。経済学の手法を用いて世の中(社会)を見たヤバい経済学 ─悪ガキ教授が世の裏側を探検するに通じるところがある。経済学者とジャーナリストが共著という意味でも、データを通して通説を次々に覆す爽快感という意味でも。
全体は「クラブ」「ファン」「代表」と分類されている。個人的に、もっとも興味深かったのは「クラブ」だ。紙面をにぎわす移籍市場がいかに非効率的か、たとえば大企業の海外勤務なんかと比べてリロケーションのケアがいかになされていないか。移籍市場の達人リヨンの話(ベンゲルだけじゃないのだ)。サッカーはビッグビジネスとよく言われるけれど、規模としてはたいしたことがないし、監督もスタッフもろくな人材がいないし、でもそれなのに企業と違って倒産する可能性が低いのはなぜか。PKは言われているほど理不尽なのかを、ゲーム理論と裏話(2008年チャンピオンズリーグ決勝、チェルシー対マンUの、誰も知らなかったPK分析!)とで徹底的に検証する話。分厚い本だし、ネチネチとくどいような部分もあるにはあるのだが、ページを繰る手が止まらない。
でも、人によっては
2 「ジャパン」はなぜ負けるのか
「Part 3 代表」
12 イングランドもなぜ負けるのか
13 「親指トム杯」は誰のもの?
14 コアから周縁へ
あたりのほうがより興味深く感じるかもしれない。実際、世界のサッカーの中心は大陸ヨーロッパにあり、そのネットワークからいかに近いかが重要であるという主張は、咀嚼し、おおいに議論すべきものだと思う。そして、ヒディンクら「伝道師」の働き。トルコや日本、中国、アメリカがこれから強くなっていく理由。ただ、本書にはあまり南米のことが書かれていないが、現在のブラジルの経済成長の目覚ましさをみていると、もともと人口(母体)も多く、代表選手のほとんどがヨーロッパでプレーしているブラジルが、やっぱり今後も世界一なんじゃないかとも思うのだ。
Sportivaの連載なんかで共著者のサイモン・クーパー(サッカージャーナリスト)のことはよく知っていたが、クーパー節は健在でありつつ、良い意味で裏切られた良書。こんなサッカー本は、いままでになかった。
「決定力不足」の国に現れた決定的な書物
★★★★★
ジャパンはなぜ負けるのか。
今の日本でこの質問をすれば多くの人が答えるだろう。「岡田だから」
キックオフまで3カ月。
監督解任を求めるヒステリックな大合唱が渦巻く「決定力不足」の島国で
決定的な時期に決定的な書物が現れた。
ヘルマン・ヘッセがナルチスとゴルトムントという対照的な二人の青年を世に送り出してから80年。
これはサッカーをめぐる「知と愛」である。
380ページに渡って繰り広げられるのは
揺るぎない「知」の化身と諸国を漫遊する「愛」の伝道師との奇妙な相関なのだが
どうやら本書では「知」が勝っているようだ。
ジャパンはなぜ負けるのか。
この質問に今までの誰とも違う方法で答えたことが「知」の功績なのだが
「愛」が負けたために個人的に不満が一つだけ残った。
2007年11月16日千葉県内で日本サッカー史を襲った最大の悲劇の瞬間まで代表を率いていた
東ヨーロッパの賢人に一切触れていないのは「書き下ろし」として納得できない。
一方でたった2行とはいえジャパンに残された一筋の光明に言及しているのは喜ばしい限り。
SONYとHONDAを生んだ国が道路舗装率10%の国に負けるのがサッカーの不条理ではあるが
2010年3月16日世界最高峰の舞台で
30mのフリーキックを落としながら曲げてスペインの街を黙らせた
もう一人のHONDAのことである。