せめてタイトルは「思うままに」にすべきだったろう
★★☆☆☆
梅原氏は哲学者として名を成していながら、歴史を中心に様々な謎に挑み新説を打ち出す変り種。"怨霊史観"の提唱者として知られる。また、仏教の造詣が深いので、この題名から宗教論の本かと思ったら、「思うままに」のタイトルで新聞連載したものを纏めたものの由。
さぞかし奇想と刺激に満ちた内容かと期待したら凡庸な出来。社会・政治問題に関する話や人物(主に政治家)論は"ありきたり"な物ばかり。あるいは逆に一人よがりで噴飯物のものも多い(将棋や恐竜など)。「水底の歌」や「隠された十字架」で見せた発想の飛躍が、エッセイを書く際には単なる独断に堕している。歴史の謎に対して斬新な説を案出するのは大歓迎なのだが、同じ手法を社会問題・人物論に適用すると無残な結果になってしまうのである。本書で一番驚いたのは、幼少の頃は数学が得意だったと堂々と書いてある事である。上記の代表作も論理的に結論を導いたのではなく、直観推理とも言うべき帰納法を用いているのだが、本人は演繹的だと勘違いしている。演繹法と帰納法の区別も付かないのに数学が得意とは...。本人を含めた身内の自慢話が多いのも鼻に突く。自己を客観的に評価する事ができない人だと改めて思った。縄文文化や怨霊を語る際などは筆運びが快調なのだから、題材を絞るべきだったろう。
「宗教と道徳」と言う題名には無理がある。せめて元の「思うままに」にして置けば、読む方もある程度仕方が無いと思ったのではないか。