「私たちが互いに発するすべての言葉には、過去の経験に基づいた意味合いがこもる。過去にいま目の前にいる人と話した経験も、ほかの人たちと話した経験も、両方含めて」

   世界的に著名な言語学者、デボラ・タネンはこう言う。私たちはメッセージそのものだけでなく、「非言語的メッセージ」にも反応する。声のトーンや人間関係、過去のかかわりなどに基づいて、言葉にされなかった部分を解釈しようとするのである。家族の間に存在する結びつきや力関係を考えれば、家族同士が理解しあうのがこれほど難しいのも理解できるというものだ。

 『I Only Say This Because I Love You』は主に、大人になった家族同士のかかわりあいに焦点を絞っている。『You Just Don't Understand』（邦題『わかりあえない理由（わけ）』）の著者としても人気の高いデボラ・タネン教授は、会話で構成された逸話を用いて、なぜ私たちは思いやりの言葉の中に批判を感じとってしまうのか、なぜ家族は秘密と不信の山を生みだしてしまうのか、言いあいの力学、謝罪のパワー、家族の会話における性別のパターン、ティーンエイジャーとのコミュニケーションについて解説する。タネンの挙げる事例の中に、あなたはきっと、自分の家族、そして自分自身を発見することだろう。

   この本は、家族間のコミュニケーションを即座に改善する特効薬を提供するものではない。しかし、家族のなかで実際にどんなことが起こっているのかを理解する別の視点を提供してくれる。問題は、どうやってこの本を母親に読ませるか、である。