イスラエルのトム・セゲフは注目すべき歴史学者。また、常に客観的視点に立った作品を発表する数少ないジャーナリストの1人でもある。そんな彼の待望の新作『One Palestine, Complete』はイギリス委任統治領時代(1917~1948年)のパレスチナを題材にし、イスラエル建国に至るまでの「近代史の臨界期」を詳述した作品だ。まずセゲフはかの有名な、イギリスの一貫性のない統治ぶりを細部に至るまで再現。彼らがユダヤ人、アラブ人双方に対して、世界まるごととは言わないまでも少なくとも1国は与えようと約束していた様子を描きだす。そのうえで、パレスチナに関するそういったイギリス人の態度は、私利私欲のためというよりもむしろ感情的な理由からで、誰にとってもいい形の解決を望んでいたせいだという主張を説得力のある証拠と共に展開している。
本書で、セゲフは従来の歴史的観点から大きくはずれた新説を唱えている。「たとえパレスチナ人に何を約束したにせよ、イギリスは最初から、徹底的なユダヤ主義支持的行動をとったのである。しかも、ユダヤ人の大義の正当性を認めたからではなく、彼らの支持的行動を支配していたのは、『ビジネスを支配し、歴史の歯車を動かしてきたのはユダヤ人である』という誤った、むしろ反ユダヤ人的考え方だった」というくだりである。
だが、この説明は歴史のほんの一部分しかとらえていなくはないだろうか。現実に、第2次大戦前のイギリスは、アラブにパレスチナを引き渡す寸前まで来ていたし、まず、セゲフは、第2次大戦が引き起こした「ホロコーストの悲劇に対する西側の罪悪感」の影響力の大きさを完全に軽視している。あの悲惨な戦争の結果広がった多くの支援によりイスラエル独立が成立し、その陰でパレスチナ人の権利が犠牲になったことは、事実ではなかろうか。
しかしながら、両者の果てることなき民族運動の経過を思慮深くかつ劇的に描いた本書は実に読みごたえがある。このように複雑な過去を引きずる中東和平問題に明るい未来はあるのだろうか。(John Crace, Amazon.co.uk)