糖分と脂肪はドラッグだった。
★★★★☆
肥満という現象を、生物学的な側面と文明論的な観点の両面から整理した啓発書。全体を要約するならば、「人間の身体はもともと、食べ物の得られにくい環境で身体を動かさなければならないことを前提に出来上がっているから、過食と運動不足は良くないですよ」という、ある意味常識的な話を説いているだけだが、その裏付けの一つ一つが非常に興味深い。農業と畜産の発達によって食物のカロリー効率がいかに高められ、身体の発達がどれだけ促進され、出産・育児の身体的負荷がどれだけ低減されたか。その一方で、カロリー以外の栄養素がいかに少なくなり、さらにそこに運動不足も加わることで、新しい病気や疾患がどれだけ増えてきたか。そして現代の経済環境と加工技術は、その功罪をどこまで拡げてきたのか。前半部分は、そうした話を歴史的事実や具体的な数値をもとに示している。
特に強烈なのは、糖分と脂肪分の過剰摂取が、麻薬を摂取した時と同じような中毒症状を脳内に引き起こすという研究結果だろう。中でも、加工食品によく使われる果糖とトランス脂肪酸は特にタチが悪いようだ。これが確かな事実であれば、麻薬ほど厳しく取り締まられたりはしないにせよ、近い将来、タバコと同じくらいには砂糖と脂肪が社会的になりを潜めるようになるかもしれない。実際、中盤から後半部分にかけてのアメリカの食品会社や農業・健康行政に対する物言いや暴露話を見ても、この本はそうした社会的気運を高めるために書かれていることは明らかだ。その辺の、アメリカ社会が抱えている問題点に関する部分では日本人に馴染みのない話も多いが、他山の石としては参考になる。また、そうしたマクロな処方箋だけでなく、心理療法や行動療法などのミクロな処方箋にも触れられていて良い。
皮肉やジョークも豊富だ。運動せずに食べてばかりの現代人をホヤに例えているくだりは腹を抱えて笑った。いろんな意味でアメリカ的な本。
美味しいものを食べてはいけないことをわかりやすく解説してくれる良書
★★★★★
軽妙に優しく何故現代の人間が肥満しやすく、でも肥満してはいけないこと、最終的には節制、食欲克己心しかないと実にわかりやすく、説得力を持って説明してくれます。人類進化の過程では常に飢餓に悩まされる狩猟採集民型食生活に適応してきた、農業特化はむしろ不健康、高カロリー食物摂取要求には「超常刺激」として抗しがたいことなど、従来からの仮説(最早事実レベルですが)をなぞっています。やや「やせ過ぎ」礼賛傾向が強いのですが、運動の大切さ、テレビの害、欧米・日本(あくまで米国中心ですが)の「健康的でない」食物・食品・食生活そしてBMI、生活習慣の問題点等列挙は充実。
著者は心理学、催眠療法の専門家だからでしょう、このあたりの持っていき方は絶妙です。ユーモアに富んだ語り口、映画/テレビ番組参照、実例など、勿論米国に特化していますのでこれらの背景を知らないとちょっとピンとこないところもあるのですが、繰り返し、読者の興味を逃がさない等サブリミナル効果があるような気もしてきます。(この本タイトルも「Waistland」これ「Wasteland」、ウエストサイズの話とゴミ捨て場の駄洒落ですね。(R)evolutionとEvolution引っ掛けたり、章のタイトルで映画のタイトル引用したり、きっと他にもたくさんあるのでしょうね)そこで最後に過食の心理要因、食欲抑制・運動取組への暗示・イメージトレーニング効果の大きいこと、催眠療法などが出てきます。この辺も具体例はないのですが(療法なので素人が勝手にやっては危険なのでしょうけれど)、ちゃんと自分の専門領域に誘導している巧みさがあります。日本の例、沖縄の長寿食生活など相当好意的に言及してくれていますが、その沖縄が食生活の欧米化で健康データ急速悪化していることや、日本人は欧米人に比しインシュリンの量が半分くらいしかでないので同じ食生活だとII型糖尿病間違いなしとか、そういう点にも次回触れて欲しいなとの読後感でした。