著者が自らの足で探したという、塩や味噌、カツオ節といった日常的な調味料、ととだし(海に捨てられていた魚のアラを使った魚醤油)、ガニ漬け(有明海の干潟に棲む蟹の塩辛)、くちこ(なまこの卵巣の干物)などの珍味、そしてマヨネーズやヨーグルトなどの外来食品…。北海道から沖縄まで全国津々浦々で作られた56種の調味料は、どれも昔ながらの食材や製法の伝統を守り、生活必需品として適正価格で売られているものばかりだ。その土地ならではの気候風土から生まれた、いうならば、「日本のスローフード」ともいえよう。
著者は、大量生産、大量消費の経済システムの中で、どこに行っても変わらない、添加物でごまかされた味に慣れてしまった現代人に危機感と焦燥感を募らせて、本物の調味料探しを始めたという。本書に出てくる作り手たちに共通するのは、自然の恵みに感謝し、製造に手間を惜しまないこと。著者自身による挿絵とともに、著者の作り手たちへの愛情が行間から伝わってくる。実用的なガイドであると同時に、日本の食文化を礼賛するメッセージにあふれた、奥の深い本である。――2003年10月(青木ゆり子)