新書らしい
★★★★★
新書らしいまとめです。
入門書として生物多様性を知るのによい。
読者の一人一人が生活している地域でも生物多様性の調査方法を、
もっと詳しく説明があるとよかったかもしれない。
生態系の生み出す価値は1年で「33兆ドル」
★★★★☆
試算ではあるが、人間の生み出す富の1.8倍もの価値を生態系は毎年創造している。農作物の3〜7割は受粉に頼っているほか、魚などの食料、木材などの原材料、汚水や廃棄物の浄化など環境機能、貯水や洪水の調節などの防災機能など…生態系なしに人間生活はありえない。精密な生態系が人間によって崩されつつある、というのはよく知られているが、著者はそれを、地球誕生以来数十億年かけて築き上げた金を生むシステムを人間は利子だけでなく元本にまで手をつけ、システムを食いつぶしつつある、と表現する。それは言うまでもない、マングローブ林や草原、森林を農地などに開発することだ。一見儲かりそうに見えるが、マングローブ林から30年で得られる利益は、エビ養殖場にする場合の3.6倍になるという。二酸化炭素吸収や洪水防止などすぐ金にならないが、マングローブには大きな価値がある。種であれ、地域であれ一つ一つは消えても大きな影響はないように見えるが、ジェンガのように、ある時どかんとツケを払わされる可能性は高いことをインドやイエローストーンの事例を引いて訴える。
後半では、世界中の生物多様性が顕著な地域の生態系縮小の現状を報告している。マダガスカル、ニューカレドニア、メコン流域など、多くが発展途上の地域であり、目先の経済発展が環境保護に優先した結果、種の絶滅、漁業資源の減少などの問題が起こっているという。
冒頭の数々の試算は衝撃的だ。試算なので、どうにでも操作できるんじゃないかという考えもあるが、とにかく数値化する、ということは大きい。環境保護の大事さをよく聞かされるが、どれほどの価値を我々は失っているか、というのは具体的に示さないと分からない。豊富な現地取材も読ませるが、誰もが手に取りやすい新書で自然のすごさを金銭的価値にして見せた所に本書最大の良さがある。
良書だと思います
★★★★★
エコブームの影でないがしろにされ続けている、生物多様性の減少。我々の社会が抱える深刻な問題の一つである。
その点本書は豊富なグラフと読み易い文章で取っ付き易く、世界的な規模で進む生態系破壊の概観と各国でのレポートが含まれており。入門書としても最適。
日本の消費者や企業が与えている環境負荷についても言及しており、多くの人に手にとって欲しい内容。この手の話を少しは勉強してきたつもりだったが、最新のデータや各国の事例など、知らない事が多くて驚いた。
確かに他の方が指摘しているよう、海洋資源の現状はは未だ解明されておらず、温暖化問題に関しては疑問の声が上がっている。だが、その事で本書が投げかけている議論の重要性は少しも損なわれていない様に思う。
環境保護団体の活動報告と言った趣きで期待外れの内容
★★☆☆☆
まず、題名が紛らわしい。この題名から想起される内容は、生物の「多様性」を生み出す遺伝的メカニズムや自然環境がそれに与える影響と言ったものであろう。実際は、本書における「多様性」とは単に種の多さを指し、種の大量絶滅が囁かれる昨今、「人間も他の種の保存に注力しましょう」、と言った事を情緒的に綴っただけ。期待外れの内容である。当たり前過ぎる事が書いてあったり(食物連鎖や虫媒花を含む生態系システムなど)、科学的論拠に乏しい論を展開している部分が目立った。挙げてみると以下の様。
(1) 中型魚の大幅減少
科学的データが何も示されていない。漁獲量からの推論であり、実データではない。また、観測点の時系列が妥当か否かの議論もない。鯨の捕獲制限により、中小型魚は増加しているとの逆の論も存在している。
(2) CO2の増加に依る地球温暖化
これも科学的データが何も示されていない。CO2の温室効果は水蒸気の1/7程度。また、温室効果ガスの93%は水蒸気が占めているのに、CO2の影響があるとは考え難い。IPCCが気温データを捏造している事が先日発覚したし、2050年頃から地球は寒冷化に向かうとの報告もある。
「熱帯雨林や希少生物を含む自然環境を人間の手で守るべき」、と言うのは誰でも考える自明の理であり、それをそのまま綴れば良かったと思う。ワザワザ非科学的論拠まで持ち出して、胡乱な議論を展開している本書の意義が全く分からなかった。環境保護団体の活動報告と言った趣きで、それならそれらしい発表場所・形式があった筈だ。
「なぜ生物多様性保全が必要なの?」という素直な疑問に答える良書
★★★★★
生物多様性を扱う類書の多くが「生態系とは何か」という生態学的な説明に注力するのに対して、本書の最大の特徴は、そうした解説を飛び越えていきなり、「生態系サービスの経済的価値」から話を始めるところにある。ところが、そもそも生き物への関心が薄く、最近になってようやく「生物多様性」という言葉を知ったような人たちには、生態学的な解説などは、むしろ退屈な“お勉強”に過ぎないのである。それよりも、生物多様性と経済との関係や、生態系と人間社会との関係を中心に論じていく本書こそ、「なぜ生物多様性保全が必要なのか?」という彼らの素朴な疑問に答えるものであり、今まで関心のなかった人にとって最も「腑に落ちる」回答を与えてくれるものだろう。
そしてそれは逆に、今まで「生物多様性の大切さが理解されない。」と嘆いていた「生き物好き・自然好き」の人々にとっても、周囲の“一般人”との間に会話を繋ぐ架け橋になるはずだ。生物多様性保全を一部の専門家や愛好家たちの関心事に終わらせることなく、我々の社会が全員で取り組むべきテーマとして浸透させていくためには、本書のような存在が絶対に必要なのである。
本書は是非、「生物多様性なんか自分には関係ない。」と思い込んでいるビジネスマン諸氏にこそ、読んでいただきたい。本書を読めば、生物多様性や生態系サービスの維持・保全こそが、実はCO2削減/気候変動対策以上に直接的に、我々の経済や社会に、そしてご自分のビジネスに、影響を与えて行くことが想像できるだろう。
名古屋でのCBD-COP10の開催を控えて、今の社会に最も必要な良書が、岩波新書という誰にでも入手しやすい形で上梓されたことは、この上ない幸せだ。ソフトバンクサイエンス・アイ新書の『生態系のふしぎ』と共に、出来るだけ多くの人の書棚に、一人前の社会人が弁えておくべき一般教養を身につけるための参考書として、本書が並ぶことを願う。