発表順の配列ではないので注意
★★★★★
単行本版を《秘の巻》《戯の巻》に二分冊したもの。
純粋にミステリとしてみた場合、出来にばらつきがあり、作者の他作品と比べ、
若干落ちるという評価は否めませんが、“奇術とミステリの融合”という、作者
ならではの世界観を堪能できる貴重なシリーズであることは間違いありません。
※各短編については、「コメント」をご参照ください。
手品の趣向
★★★☆☆
2000年に出た単行本『奇術探偵曾我佳城全集』を、「秘の巻」と「戯の巻」の2冊に分け、文庫化したもの。
『天井のとらんぷ』、『花火と銃声』に収録されていたものがほとんどである。
「空中朝顔」「花火と銃声」「消える銃弾」「バースデイロープ」「ジグザグ」「カップと玉」「ビルチューブ」「七羽の銀鳩」「剣の舞」「虚像実像」「真珠夫人」が入っている。このうち文庫未収録だったのは、「真珠夫人」のみ。
引退した美貌のマジシャン・曾我佳城を探偵役とするミステリで、さまざまな奇術が題材として取り入れられている。消える弾丸のはずが実弾になっていて助手を撃ち殺してしまったり、カップと玉に暗号が仕掛けられていたり、趣向としてはなかなか面白い。
しかし、ミステリとしてはどれもパッとしない。「花火と銃声」が、やや優れているといったくらいか。ほかのはどれも感心しない。
佳城ファンのみが楽しめる作品
★★★☆☆
本職のマジシャンでもある作者が、元花形女性奇術師、曾我佳城を探偵役として様々な人生模様を綴った短編集。勿論、事件を扱ってはいるのだが、ミステリと言うよりは男女の機微を中心とした心模様を描きながら、佳城が彩りを添えると言う形式である。作品には色々な形で佳城が登場する。全集と言う性格上仕方が無いのかもしれないが、雑誌への掲載順と収録順が異なるので、佳城の境遇が一貫しておらず読む者を混乱させる。
作品の出来としては冒頭の「空中朝顔」のように事件が起こらない物の方が良い。上述したように男女の機微に花作りと言う艶やかさが加わり、更にそれに佳城が華を添えるというシャレた創りである。一方、私が期待した奇術を応用したミステリの方は出来が悪く興醒めである。佳城の推理力を強調する余り、死体移動に警察が気付かないとか、奇術師が本物の銃弾を使うとか、指輪を咥えて飛んで行ったカモメが偶然船に舞い降りるとか無茶が多過ぎる。奇術のネタを巧みにミステリのトリックに昇華する手腕に欠けている。その癖、マジックに関する作者の知識をひけらかすので読む方はウンザリである。読む方は、元花形女性奇術師が探偵役を務めるのだから、さぞかし華麗なミステリ・ショーが展開されると思って期待するのは当然で、それが完全に裏切られる。本全集は本巻と「戯の巻」の二部構成だが、両方とも同様の出来である。
結局、佳城の魅力に頼り切ってしまって、肝心なミステリとしての面白さにまで気が回らなかった残念な作品。佳城ファンのみが楽しめる作品と言って良いだろう。
佳城ものの集大成
★★★★☆
20年にわたって書き継がれてきた短編を集大成した貴重な本。しかももう続編は書かれないからこれがほんとの全集。泡坂妻夫の短編のうまさは定評があるが、このシリーズでは主人公の佳城の登場の仕方にも工夫がされ、決してワンパターンになっていないところがいい。各編の配列が執筆順になっていないのだが、最初から順に読んでも違和感はない。というか順序通りに読むことをおすすめする。