本書が出版されるまで国家Ⅰ種試験用の国際法テキストはほとんど皆無に等しく、受験生は山本草二『国際法』など分厚い学術書を読むしかなかった。そういった意味で本書が出版された意義は大きい。内容は、伊藤塾のテキストらしく、なじみの薄い国際法をわかりやすくかつコンパクト(300頁弱、ちなみに上記した山本国際法は700頁弱)に解説し、各章末に実際の試験問題を付すことで法学部生でなくとも国際法を容易に学べるものとなっている。また、巻末にはいわゆる「論証カード」が付録としてあり、国家Ⅰ種法律職2次試験の記述対策としても十分耐えうる。
しかし、本書のみで対策が十分かといえばそれは「ノー」といわざるを得ない。まず公務員試験の法律科目の最大の特徴は「判例主義」なのはいうまでもないが、本書に収録されている判例の数はあまりにも少なすぎる。『判例百選』もあわせて読まないと対策としては不十分であろう。また、各条約についても記述が不十分なように感じる。条約集も必須であろう。さらに、本書のみならず本シリーズ全てについて言えることだが、巻末にある記述試験の過去問の模範解答例がない。なにゆえ解答を付さなかったのか疑問である。