政敵トロツキーにより、巷間伝えられてきたスターリン像を根底から覆す
事実と説得力を有する力作である。これまで、各国の歴史作家が未着手の
グルジアを初めとする出身地域の各種文書・日記、回想録等を猟集・分析、
併せて関係者へのインタビューにより整合を検証。既に各国語版にて高い
評価を受けているのも得心する。歴史の表舞台に登場する以前のスターリン
を研究する際の必須の基本文献となろう。
スターリンはNKVDやグラーグ制度による党・軍の粛清をはじめ、多民族から
なる自国民へのテロを繰り返しつつ、類の無い冷酷な独裁体制を構築したが、
あれほどの権謀術数を駆使して、邪魔者を追いつめ、最後に抹殺する忍耐強い
能力をどう獲得するに至ったか？また一方でスターリンの読書量の膨大さや
スターリン全集（事実の改竄などは置くとして）のごとく、地方革命家時代から
膨大な著作をなし、後年、トロツキーを含め、政敵の膨大な著作も精読、
傍線や書き込みをしていたことで知られている。が、これはトロツキーが描く、
猜疑心が強く、粗暴で、学の無い借り物の社会主義活動家、影のような
存在感しか無く、さえない演説家というスターリン像では説明できない。
本作は、まさにこのギャップを氷解させ、若きスターリンの真の姿を浮き彫り
にする。大作ではあるが、一気に読ませる強力な磁力を持っている。
是非、一読をお勧めする。