「こうなる」を自分で考えるための本
★★★★☆
断言的なタイトルに、不動産マーケットのこれからをバシッと見通す明快な予言の類を期待すると、たぶんがっかりすることになるでしょう。しかし。
一読してみれば、むしろ本書の大半は、不動産マーケットは「こうなった」あるいは「こうなっている」という、現状の整理に捧げられています。この数年の、マーケットの制度的な変化、プレイヤーの変化等(どれも大変動といってよいものです)について、実に丁寧にわかりやすくまとめられていますし、不幸なことに出版の時期と重なってしまった2007年後半以降の大混乱についても可能な限り視野に入れるべく努力されているところには感心します。この分野の直近の変化・現状について鳥瞰したい、知識を整理したいという方には最適だと思います。
また、後段の「こうなる」の部分についても、いくつかの前提を慎重に置いた上で、楽観的、メイン、悲観的、の3通りの予測シナリオを提示するというかたちになっていて、まあそりゃちょっと物足りないなあという感は個人的には否めませんが(笑)、前段の知識を駆使して後は読者それぞれが判断すべきことなのでしょう。
怪我の功名なのか、状況の激変で急遽構成を変更した戦略の勝利なのかは不明ですが、若干タイトルを裏切る(我ながらしつこい)こういう構成にしたことで、本書は、ごく最近の激動にも色あせることなく十分価値を維持し得るものになっていると思います。
ついでに。現状の整理のみならずさらに基礎に遡って知識を身につけたいという方には、同じ著者たち・同じ出版社の『不動産投資リスクの基礎知識』が参考になると思います。