ユニークな視点に得るところもあるが…
★★★☆☆
ところどころに卓見が見出され、得るところも大きい。しかし残念なことに、研究者らしからぬ筆の運びもまた目につく。
タイトルは遷都1300年を意識してか、「平城京遷都」であるが、特にそこに焦点を絞っているわけでもない。副題の「女帝・皇后とヤマトの時代」が本書の内容を伝えている。
(遷都1300年を期して、気を惹くための「平城京遷都」なのだろうか。誠実さで鳴る中公新書にして販売戦略を優先したか?)
章だても序章を除き、すべて女帝・皇后を立てている。女帝・皇后をテーマとする本ならば、それも当然だが、そういうわけでもなく、じつは「ヤマトの時代」が本書のテーマ。この時代の通史のスタイルを採っているのに、必要以上に女帝・皇后を強調しているので通史としては論述がギクシャクしてしまう。
(話題性のための女帝・皇后の強調なのだろうか)
歴史地理学者のユニークな視点に得るところもあるが、著者の想像に基づく歴史上の人物の印象批評は抑制すべきだろう。残念なことに、これが本書の価値を減じている。
(功成り名を遂げた著者の気の緩みか、慢心か?)
ダイナミックな古代の政治
★★★★★
飛鳥・奈良時代を形作る政治の動乱を、女帝の役割に注目しながら考察する。文章は理路整然としており、史料、地理条件および考古学的発見を慎重に検討し、仮説を検証していくスタイルが一貫している。そのため、著者の思考過程がよく分かり、読みやすい。複数説あるものは併記していることも評価したい。
話は仏教受容をめぐる権力争いに始まる。仏教推進派の蘇我氏は政略婚を駆使し、天皇の外戚となることで権力を手にする。蘇我氏や後の藤原氏のような外戚は、一族の血統の入った天皇を立てて権勢を維持しようとする。この政治戦略の中で、中継ぎ役として女帝を立てたという。
飛鳥・奈良時代は、東アジアにおける日本を意識せざるを得ない国際的な時代だった。その状況下で、日本は国家戦略として飛鳥から藤原京を経て平城京へと遷都を続けた。本書の言葉を引用すれば、「国家は周辺地域の地政学的な動きのなかで、連動しながら作られていく」(p147)。
この時代には、後に続く平安時代から江戸時代までの内向きな日本の姿からは想像し難い、外に向いたダイナミズムがあった。その激動の中で、推古、斉明(皇極)、持統、元明、元正、称徳(孝謙)の各女帝および光明皇后がなした事績と苦悩が、運命や宿命といった一言では済まない泥臭い政治的人間関係を通して語られるとき、古代の女帝たちの姿がリアリティを持って読者の前に現れるだろう。
外交の時代
★★★★★
日本の首都が奈良にあった時代を、朝廷の動向と共にまとめた良書。
まだ国家像はもちろん、天皇制自体も確立していはいなかった時代。当然、政治図
によって都も変わり、大きな変遷だけでも飛鳥、藤原、平城と移って行く。
面白かったのは、この時代の日本が近代以前でもっとも国際的で、目指す国家像を
掲げた存在だったこと。それが都城や律令体制の整備へとつながっていったのだ。
国家像を描けずに子供の喧嘩を繰り広げる現代の政治家にも見習って欲しいものだ。