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半分のぼった黄色い太陽

価格: ¥2,730
カテゴリ: ハードカバー
ブランド: 河出書房新社
Amazon.co.jpで確認
アフリカ文学を数多く訳してきた経歴を持つと同時に詩人でもある訳者の日本語は練達で、大変読みやすい。 ★★★★★

 1960年代のナイジェリア。そこに暮らすエリート数学教師のオボニデ、その妻オランナ、その双子の姉妹カイネネ、カイネネの白人の恋人で作家志望のリチャード、そしてオボニデのもとへやってきた奉公少年ウグウ。彼ら5人は内戦の中で生まれたビアフラ共和国の“半分のぼった黄色い太陽”の国旗のもと、時代に翻弄されていく。

 朝日、読売、毎日、産経の各紙書評欄で取り上げられるほど話題となった、ナイジェリア出身の女性作家が書いた小説です。
 上下二段組みの上に500ページになんなんとする大部の著ですが全く臆することなく読むことができます。

 内戦はオボニデら主人公たちの玄関先に突然やってくるわけではありません。
 それはまずラジオの電波に乗ってやってくるのですが、つまりそれほど自分たちの生活とは縁遠いところで発生した事件としてまず伝わってくる程度です。内戦の危機感はまだ他人事のように切迫感はありません。
 むしろオボニデとオランナ、カイネネとリチャードという二組の男女の、まさに男と女の事件のほうが彼らにとっては日々の火急の用事なのです。戦争に比べれば些細に見えるこの事件は、当事者たちにとっては身を引きちぎられる痛みなのです。

 しかし内戦は容赦なくひたひたとゆっくり、確実に彼らの生活に忍び寄ってきて、やがて彼らの男と女の事件を蹴散らす勢いを帯びてきます。

 「ウグウは頭痛がした。なにもかも、すごいスピードで動いていた。彼は自分の人生を生きていなかった。人生が彼をのっとっていた。」(416頁)

 戦争の初期に人々が自国の勝利を薄弱な根拠に基づいて無邪気に確信していながら、気がついたときには踏ん張りどころを優に過ぎてしまって後戻りのきかない状態へと突っ走っている。戦争がその初期に見せるそんな巧妙さ、そして後期に人々を翻弄する制御不能さ加減をこの小説はじっくり時間をかけて巧みに描いていくのです。

 自分たちが始めたわけでもない戦争が、自分たちを当事者として断罪し切り裂いていく。その理不尽さを静かに訴える、大変優れた小説です。