象徴と隠喩に満ちた「《スタイル》の戦争」の記録。
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1980年代初頭、ニューヨークのグラフィティ・ライターたちの活動にフォーカスし、ヒップホップ・カルチュアの黎明期を記録した傑作ドキュメント。
この映画の中でも何人かのライターたちが触れているが、地下鉄車両への缶スプレーによるグラフィティはヒップホップ文化が抬頭する以前の1970年代を通じて拡がりを見せていた。
それがたんなる「落書き」から、独自のコードやスタイルを持った表現として洗練され、ラップやブレイクダンスとともに都市ロウワー・クラスの文化として一気に拡大すると同時に人種や階級の問題をも孕んだライターvs.行政のコンフリクトを顕在化し、さらにはライター同士の競争も相俟って、まさしく「戦争」とも言うべき様相を呈したのが、この映画の制作された1980年代初頭であったと言えるだろう。
そうした状況を反映して、この映画ではライターやブレイクダンサーといったヒップホップ・カルチュアの側からの発言や彼らのアクションのみならず、その家族、警官や市長らニューヨーク市当局者へのインタヴューや、さらにはこうした街路の表現を資本の側へと取り込もうとするアート・ディーラーやジャーナリストたちへの取材もまじえ、この「戦争」を重層的に捉えた興味深い記録となっている。
その後の「I Love N.Y.」キャンペーンや再開発により監視と消費による都市管理へと大きく舵が向けられ、「2001.9.11」以後、その流れはさらに加速しているように見える。
象徴と隠喩に満ちた「《スタイル》の戦争」はそのようにしてひとつの終わりを迎えたのかもしれないが、ここに記録されたミクロ・ポリティクスから私たちが汲むべきものはまだまだ多い。
想像/創造することはイコール生存のための闘争である。この映画はたんなる歴史的エピソードの記録であることに留まらず、私たちにそのことを問いかけ、それを考え実践するためのヒントを与えてくれるだろう。