プロにしか歌えない歌
★★★★☆
ひばりさんは晩年、歌が売れなくなった。「今は素人さんが歌える歌でなければ,歌は売れない時代で」
「私もそういう歌を」というとき,寂しそうだった。ひばりさんは,プロでなければ歌えない歌を歌いたかった。
だから,最後も本当はあの歌にはしたくなかった。
言葉のチカラ!
★★★★★
美空ひばりというスターについて知るというよりも、竹中氏の言葉の力に圧倒された本でした。私の脳裏に見たこともない戦後の焦土が広がり、昭和のスター美空ひばりへの親近感(失礼かもしれませんが)が込み上げて来ました。文学とは異なる言葉の叫びに心ふるえることのできる名作です。美空ひばりの本質へ迫りたい人はもちろん、ジャーナリストとして文章を書く姿勢を実感した人にもおすすめです。
ひばりの芸を心から愛した著者による評伝
★★★★★
母が高齢になり、めっきり衰えてきた。喜ばせようと思って、美空ひばりのDVDを買ってきて、私が虜になった。ひばりの歌には、魂を揺さぶる何かがある。
母の世代にはひばりのファンが多いが、私たちの世代の多くは、ひばりを古いものだと考えてきた。じっくり聴くことはなかった。
竹中氏は、ひばり母子、父、彼らを取り巻くいろんな人々と親しく付き合い、時には大喧嘩をして絶縁しながらも、ひばりの芸に心酔して、書き続けた人である。
これらが、すべて客観的な事実であるかはわからないが、ひばりについての、極めて優れた本であると思う。
竹中氏が心を込めて書いている文章を引用する。世界的な名声をもっていた歌手ベラフォンテが来日し、竹中氏が仲介してひばりと会ったときのことである。
「とっておきの隠し芸、このうたはね父から習ったの」、酔ってみだれず口演したのは三門博『歌入り観音経』、伴奏なしで朗々と切々と、...遠くチラチラ灯りがみえる、あれは言問こちらといえば...
ゴウッと音を立てて、胸の中を川風が吹きぬけた。私は震えた、それはもう凄いというより他に表現のしようもない、天来の調べであった。ベラフォンテほどのうたい手が圧倒されて声もなく、涙ぐんで聞き呆けていた。「あなたも何か?」とうながされると、首をふってこう言った。「今夜はうたえません、この唄を聴いたあとでは」。それは世辞ではなかった。レパートリーに組んでいた日本の歌を、『さくらさくら』のオープニング以外すべてやめたいと、ベラフォンテは同席したプロモーターに申し出たのだ。
「彼女の民謡を聴いたので、私はニッポンの聴衆の前でこの国の歌をうたうことがとても恥ずかしくなった」と。