ロバート・ハリスの長編第一作「Fatherland」、そして第三作「Archangel」を読んだ時の衝撃を忘れられません。前者はナチス・ドイツが大戦に勝利した世界で、ユダヤ人虐殺という国家の謀略を暴こうとする男を主人公にしたサスペンス小説。後者はソビエト連邦におけるスターリンの秘密をめぐる追いつ追われつの物語。どちらもそのあまりの面白さと苦い結末に興奮を抑えることができませんでした。
本作「ポンペイ」はこれまでの作品と異なり、舞台を一気に2000年近く前に設定し、今日までのヴェスヴィオ山噴火の研究成果を駆使して描いた物語です。
しかしポンペイが火山噴火によって甚大な被害を蒙ったことは知られた史実です。結末はその悲劇に向かって進まざるをえず、その点を事前に承知しながらでも読むに値する物語に仕上がっているかというと、否定的に見ざるをえません。ハリスの上記2作品で味わったような驚愕的結末は待ち受けていませんでした。
「もしエクソムニウスがシチリア生まれでなければ(中略)ヴェスヴィオ山にわざわざ登ったりしなかった」(373頁)とありますが、これは「ストラボンはあの山をエトナ山になぞらえておる」(368頁)という言葉と合わせて読む必要があります。
エトナ山はシチリア島で紀元前から噴火を繰り返す火山です。エクソムニウスが故郷で見知った火山による地殻変動をヴェスヴィオ山に感じ取っていたということです。私は去年このエトナ山に行きましたが、なかなか圧巻でした。