一気に読了
★★★★★
鎌倉見物の折、ふとここが里見とん邸だったなどと人がささやいていたことを思い出しました。
里見の名前は、「とん」という音の珍しさもあって知っていましたが、実際の作品を読んだ人は少ないでしょう。
だが、それにしても、評伝がほとんどなかったとは!
新潮文学アルバムとか、日本近代文学全集などに入っているものとばかり思っていました。
そんな、やや忘れられつつある名人芸の作家を詳細に浮かび上がらせ、いきなり再評価の俎上にあげた力作。
晩年のところまではしょらずに淡々と綴り、はじめは凡長かと思っていたら、おもしろくてぐいぐい引き込まれ、結局一気に読了となりました。
志賀直哉神話のようなものに疑問を投げかけたり、文学畑以外の人間でもたのしく読めて、とても刺激的!でした。
泉鏡花、志賀直哉、谷崎、小村雪岱、木村荘八、小津安二郎、笠智衆…多士済々の登場人物のインデックス、文献なども充実し、学問書としても抜群の完成度で、しかも面白い。
こんな労作をどのくらいの期間で準備して書き上げたのか、筆者を質問攻めにしたくなりましたが、あまり書評等で紹介されなかったのが残念です。
絵描きだと、金山平三とかまあ木村荘八でもいいけれど、絵はこんなにいいのに埋もれていってしまう!という人みたいな作家でしょう。
里見、そしてこの労作をてがけた小谷野の、二人の「トン」氏のお仕事に、深く感じ入りました。
トン先生、こんなに愛されてよかったですね。今まで待った甲斐がありましたね。