舞台は山に近い小さな町、高校生のまち（夏蓮）ら少女たちは、物語をRPGのようにリレーしながら遊び始めていく。一方、大人たちも慎ましやかにそれぞれの日々をいき続けている。そんなある日、大雨の影響で地中から“埋もれ木”と呼ばれる古代の樹木林が姿を現した。やがて町の人々は、そこでカーニバルを開催することを思いつく…。『泥の河』など寡作の名匠･小栗康平監督による人間讃歌。ここにはドラマらしきものは何も起こらず、ただそこで生活する人々のささやかな息吹のみが静謐（せいひつ）に綴られていくが、映像は一貫して視線をずらし続け、何気ない日常が視線を少しずらすだけで実にファンタスティックな世界になりえることを教えてくれるのだ。そして古代樹の出現とそこで開かれる祭りによって描かれる時空を超えた意識の奇跡には、もはやあふれる涙を抑えきることすらできない。これぞ究極のファンタジー映画と断言したい傑作中の傑作。難解ではない。ただただ映像にその身を委ねてみよう。（増當竜也）