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妖異金瓶梅―昭和ミステリ秘宝 (扶桑社文庫)

価格: ¥820
カテゴリ: 文庫
ブランド: 扶桑社
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「邪淫の烙印」の原型作品である「人魚燈籠」を特別収録 ★★★★☆
精力絶倫の豪商・西門慶が抱える数多くの妾の中でも、第五夫人
の潘金蓮は、絶世の美貌を持ち、稀代の大淫婦といわれていた。

西門慶をめぐり、妾同士が妍を競う日々の中で、しばしば陰惨な事件が起こる。

屋敷に出入りする西門慶の友人・応伯爵は、毎回真相を
見抜くのだが、決して犯人を糾弾したりしない。なぜなら……。


陰惨でグロテスクな犯行が、純粋で切実な動機を持つ犯人によってなされ、
それを探偵役が黙認し、時には、手助けまでするといった形式の連作短篇。

普通のミステリにおけるハウダニットを期待すると、正直肩透かしですが、作品
の世界観に基づく奇想天外な犯行の趣向それ自体がユニークで、楽しめました。

とはいえ、死体の切断・移動のトリックが冴える「赤い靴」と
「女人大魔王」は、ミステリとして見ても文句なしの傑作です。


後半の短篇からは、『水滸伝』の豪傑たちが登場し、物語が一気に緊迫してきます。
そして、主要人物の死を経て、カタストロフィになだれ込む終盤の展開は圧巻です。




「金瓶梅」に本格ミステリ味を加えて現在に甦らせた快作 ★★★★★
中国の四大奇書の一つと呼ばれる「金瓶梅」をベースに、山田先生が独特の風味を加えた作品。原書はエロティック性と社会批判のため禁書となったが、エロティック味は山田先生の専門なので読む前からワクワクする。原書と物語の構成は変えているが、舞台設定や登場人物はそのまま用いているようである。梁山泊の傑物が跋扈する時代である。大富豪で"稀代の好色漢"西門慶と愛妾達を巡る物語だが、中国流の残虐、色欲、宦刑、男色、狡知、嫉妬、妖艶、殉葬、神仙、狂宴等が楽しめる。勧善懲悪や因果応報等の道徳律は存在せず、ひたすら毒気に満ち溢れた物語をむしろアッケラカランと綴っている所が山田先生ならではであろう。

放埓な生活を送る西門慶の回りで愛妾と美童子達が次々と殺される怪事件が起こるのだが、山田先生の手柄は、道楽者で西門慶の義兄弟の応伯爵を名探偵(?)に仕立て上げた事であろう。最初に事件が起きた時は、"忍法帖"風の突飛な解決をするのだろうと思っていたのだが、どうしてどうして創りは本格なのである。そして犯人の奸計を見破って、犯人に囁く(読者に説明する)のが応伯爵の役目。それでいて犯人から危害を受けない不思議な幇間役だ。「原作+山田流」の妖異譚はそのままに、事件の数だけ短編ミステリが楽しめると言う画期的な趣向である。それもカーの「****」ばりのトリックを使っていたりするので驚きだ。そして最後に待っているカタストロフィー...。

全編を貫く「この世で一番恐ろしいのは女の嫉妬と驕慢」と言うテーマも鮮やかに映える。「金瓶梅」に本格ミステリ味を加えて現在に甦らせた快作。
「金瓶梅」への最高のオマージュ ★★★★★
「金瓶梅」の世界を舞台にした短編ミステリ集。どの短編を取ってもトリックの仕掛け、その動機共にレベルが高い。更に短編はバラバラではなく全体を貫く有機的なつながりを見せており、一つの長編小説として読むことも可能。山田風太郎の代表作というだけでなく、日本ミステリの代表作とも言える作品である。