著者は「私は信仰を持たない。あえて言えば、このエッセイはそのあたりにも多少の価値があるかもしれない」と言明して『旧約聖書を知っていますか』を上梓(じょうし)した。本書はその姉妹編。「欧米の文化に触れるとき、聖書の知識は欠かせない」とわかってはいても聖書を通読するのは骨である。新約聖書を知識として読む場合のつまずきのひとつは「福音書に記されている奇蹟」だろう。これは「のべ数にして60件ほど。重複しているものもあるから、実数としては30件あまり」あると分析。というのもミステリー作家である著者はイエスの教えの中核を抽出するため福音書の全文をコピーし「教義を示しているもの」「たとえ話を主とするもの」「奇蹟を起こしているもの」「事実の経過を記しているもの」に内容を分類し「あまり本質的ではないと思えるもの」を取り除く作業をしている。そんな手法があったと知るだけで新約聖書はグンと身近になる。そしてイエスのたとえ話についても「深い意味を持つものもあれば、その場のやりとりに近いもの…つまり、敵対者から攻撃を受け、それをかわすためにヒョイと放ったような言葉もないではない」と、聖書挫折者が連ねそうな不審点にまず相槌(あいづち)を打ってくれる。そして阿刀田流にシャッフルした新約聖書の流れに沿って読者を源泉へ誘う。自在に半畳を入れた『旧約聖書を知っていますか』に比べてエンターテイメント性は低いが本書は読者を原書に対峙させる力を持っている。(松浦恭子)
聖書入門としては分かりやすかった
★★★★☆
キリスト教は世界三大宗教ではあるもののその内容については知る機会も乏しく最初の一冊として手に取りました。
仏教の創始者「釈迦」は人から仏の悟りを開いたあくまで「人」からのスタートである一方、
イエス・キリストは生まれながらにして「神の子」であり、この点に大きな違和感を感じていました。
しかし、この本を読むことで歴史上の人物であるイエス・キリストがキリスト教の信仰の対象としての
「神の子」イエス・キリストになったのかを違和感なく納得することができました。
幼少時からキリスト教に慣れ親しんだ信仰のある人達にとっては賛否両論だと思いますが、
キリスト教になじみのない人の入門編としては良書だと思います。
キリスト教信者を知るためには
★★★☆☆
同じ作者の『旧約聖書を知っていますか』は何度も読み返し
何人にも勧めた私の中では初心者向け、旧約聖書ダイジェストナンバーワンである。
内容も面白く、わかりやすい。
聖書入門としてもお勧めなのだが、『新約聖書』になると・・・
まず、新約聖書がダイジェストにするほど物語性がない。宗教の教義に立ち入らず第三者的に書くにはあまりにも内容が漠然としている
卓越した作者をもってしても、新約聖書をキリスト教の知識のない信者以外に、信仰と切り離してダイジェストにするのは至難の業だったのかもしれない。
しかし、冷静に聖書を読んだとき沸き起こる素朴な疑問を信仰という雑念なしに解明したり、聖書にたびたび登場するマリアの同名がこれだけいる、弟子たちについてなど、はっきりいって教徒でもよくわかっていない事を説明している点、海外の芸術作品(美術)や小説などを読む上でも役にたつ。
イエスと弟子の奮闘記
★★★★★
宗教と聞くと割と多くの人が一歩引いてしまうであろう昨今。私もそんな一人でしたが、読んでびっくり、おもしろい。新約聖書とはイエスと弟子の奮闘記だったのだなぁと、冒険物語でも読むような気持ちでサクサク読めました。
ある程度の分別がつく歳になれば誰もが彼の名前と誕生日と生まれた場所と処刑方法くらいは知っている、間違いなく人類史上最重要人物。なのに奇跡とか胡散臭いと敬遠して彼自身を知ろうとしていなかった自分を反省。
奇跡を起こしたかどうか、そんなことはエピソードとして知っていれば充分で、イエスの凄さはそんなことじゃないんでしょう。没後、弟子達に命をも賭ける決意をさせ、2000年経った今も多くの人達を引き付ける、そんな人間がこの世に存在したのだということが凄い。
以前、井上ひさし氏の書物を読んだ時にこんな件がありました。『私はキリスト教を信じた訳ではない。私たちのため日々畑仕事に明け暮れる神父の、土に汚れ荒れた手を信じたのだ。』人が最初に信じるのは神ではなく、神を信じる人なのでは、と感じさせる人間味溢れる良作でした。
新約聖書の面白さ
★★★★☆
「旧約聖書を知っていますか」の対となる新約聖書版です。
旧約聖書に比べて、主人公は「神の子イエス」とわかりやすい分、物語としても
非常に面白いと思います。
宗教家では決して書かない、いわゆる奇跡についても
筆者独自の楽しい解釈があり興味深いです。
押し付けの宗教書でなく(下手に読んで勧誘されたり洗脳されたりしたら嫌でしょ?)
「聖書って何が書いてあるの?」という視点で読むのに最適です。
イエス誕生の仮説に脱帽
★★★★★
おなじみ阿刀田高のシリーズです。
他のレビューアの皆様が書かれている通り、
非常に分かりやすく新約聖書の話を教えてくれます。
教会の壁面に描かれた絵画は聖書の話
を教えるために描かれたものですので、
聖書の内容を知っているのと、知っていないのとでは
その鑑賞内容が大きく変わってきます。
絵に興味のある方、ヨーロッパへ旅行に行かれる方は
是非とも御一読を。とにかく面白いです。
そして何よりもお勧めなのは、この本の中でも
極一部の1〜2ページ分のところなのですが、
著者がイエス・キリスト誕生の裏話の仮説を書いています。
これは傑作です。私も本気でそうだと信じてしまうぐらいです。