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大貧困社会 (角川SSC新書)

価格: ¥819
カテゴリ: 新書
ブランド: 角川SSコミュニケーションズ
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マクロ的視野からみた貧困社会 ★★★★★
本書のような書名の本の多くは、現場から、あるいは貧困の場にいる人のルポを題材にした上で、問題提起を行い、解決策を探るというものが多いのだが、本書は的確なデータと深い洞察力によってマクロ的な視点から現在の問題を解説している。

データを多用して、政策的な提案を行ったものは、えてして冗長になりやすいが、本書に限っては、なるほどと納得させられるものばかりだ。主張が明確で、正論ばかりだからだろう。内容は雇用・所得のセーフティネット、医療・年金、さらに貧困問題にまで及ぶ。これらの問題に対する、著者の説く処方箋に一票である。
的確で誠実な貧困・社会保障分析に頭が下がる。大衆に媚びない良書! ★★★★★
公正でバランスの取れた当書の分析が五つ星に値するのは間違いない。『貧困大国アメリカ』や『子どもの貧困』のような、自己正当化と責任転嫁を助長する本の跋扈に辟易する、良識ある方々にお薦めする。

有権者の自己欺瞞にも鋭く切り込むこの本の切れ味の一端を紹介すると、以下の通りである。

○雇用を支える手段は二つ。消費者の人件費コスト負担増か、国民の税・社会保障負担増
○支払った保険料に見合った額に調整すると、今の高齢層の年金給付額は3〜4割高い
○生活保護の世代間継承の原因は、家庭での生活習慣と教育軽視、自立意欲低下にもある
○調査によれば、将来を軽視し目先のことばかり考える者は年金保険料を支払いたがらない
○高齢層が貧困に陥る最大の要因は、年金未納である
○国税庁が年金保険料を徴収するスウェーデンでは、年金未納は発生しない
○日本の家族・子ども向けの公的支援は先進国中、最低。本来は有効な社会投資のはず
○「小さな政府」と「貧困の解消」は両立不可能(=今の税率では貧困改善は不可能)
○成長率も一人あたりGDPも高い北欧の政策を参考にすべき

最も驚いたのは、駒村教授が講演で公的年金破綻の可能性を警告すると、「年金が破綻しようがどうでもいい。自分たちの年金だけ減らされなければいいのだ」「自分たちは苦労したのだからご褒美を貰って当然」と反論する高齢層が一人や二人ではなかったという逸話である。日本の世代会計がこれだけグロテスクな世界最悪の数字になっているのも道理だ。日本は「シニア層の植民地」なのかもしれない。

一方、物足りないのは政策提案である。育児・介護など福祉分野と医療分野で雇用を大幅に増やして社会保障財源を支えること、明らかに資産と年金給付の多い高齢層に相応の負担を求めることが絶対に必要だろう。
30代以下の人にぜひ読んで欲しい ★★★★☆
よく言われる「現役世代の50%程度の収入を保障」の意味を取り違えている(自身の現役時代の、というのは誤りで受給時における現役世代のが正しい)、との指摘は普段ニュースを見ていても気がつかないことで、そのあたりの啓蒙が欠かせないと考えました。また社会保障財政が逼迫するほど目先の施策しか打てなくなり、中長期的な問題の解決にならない、こともよくわかり、自分より若い世代(30代以下)は投票にいくことで少しずつ意見を反映させていかないとならない、と感じました。
福祉政策としての可能性と限界 ★★★☆☆
現状分析は多方面にわたり、偏らず、的確に事実を照らしており、
単純な自由主義による競争社会批判に留まらない記述は好感が
持てる。
さらに、最終章の年金改革案は具体的で論点が明確だ。
しかし、どうもビジネスパーソンとして、この本を読むと
「よくできた官製レポート」の側面があることも否めない。
老後資金の準備は自助努力の積立のウェイトがもっと高まると
思うし、また、キャリアラダー制度は、現場からみると
「きれいごと」過ぎる。
ただ、このような批判を喚起するだけの問題提起が、本書にはあり、
興味ある方は一読してほしい。


貧困大国 日本 ★★★★★
現在もヒットしている「ルポ 貧困大国アメリカ」と同じく、
新自由主義に基づく規制緩和が中産階級を弱らせて、
ワーキングプアを増大させ、貧困が社会問題化していると、
本書は現状分析しています。

問題はそれはアメリカではなくて日本だということ。

私たちが知らない間に、
日本の貧困率は世界でも高い水準に到達してしまっていたのです。
財政は破綻寸前、少子高齢化は進行中。
本書の描く日本の姿は絶望的に見えます。

経済的なセイフティーネット、医療、年金制度、これら の社会基盤まで「崩壊しつつあり」、
最後に教育格差まで世代間移転が発生していることが示されます。
ここまで読むと、相当ショックです。

一方で著者はこういう八方塞がりの日本へ向けた処方箋を書いています。
貧困解消を最初に手を打つべきと言っています。
格差社会の解消へ向けての議論は、
従来は社会システム的な観点が中心であったように感じますが、
本書では「貧困の解消」という、
より具体的な課題設定をしているため、
方向性にはうなずけるものがありました。

大変読みやすく勉強になりました。
著者には続編を期待します。