これは待ち望まれていたアルバムです。
★★★★★
Wynton がツアーの合間等にジャムセッションに興じているのを生で聴いたことのある人は、「こんな演奏をCDにすれば良いのに」と思っていたのではないでしょうか? 冷たい、とか洗練過剰みたいに言われることも多い Wynton の音楽性。だけど「素」では、ホントにオーソドックスで、かつ自然で、即興演奏についても過去の天才達に比肩し、そして凌駕しうる実力の持ち主であることは、幸運にもその場に居合わせた人は必ず感じ取っていたと思うのです。その比類ないテクニックもスリルと驚きを純粋に追求するが故に身に付いたものであり、モチーフ・ディベロップメントという即興演奏の基本をあくまで忠実に体現する Wynton。そして勿論、心から音楽を楽しみ、トランペットを吹く喜びを高らかに歌い、他のミュージシャンの演奏に掛け声をかけ、そこに居る人々と冗談を交わし、徹底的にスウィングに拘る Wynton。
このCDはジャムセッションでこそありませんが、全編にわたってそんな雰囲気をよーく伝えるごく自然なスタンダードの解釈の演奏です。勿論、トランペッターであれば手品を見せられているような曲芸も頻出するのですが、音楽的にはごく自然に昇化されていると言えると思うのです。すっかり日本でもお馴染みとなりつつある現存するミュージシャンでは世界一の音色を持つホントに温かい個性のアルト奏者 Wes ”Warmdaddy” Andersonの好演、若干地味ではあるけれどももの凄い知的で端正な演奏でサポートするピアノのEric Lewis、そして日本の誇るハード・スウィンガーのBassist 中村健吾さんのブットいサウンドもホントにハッピーであるが故にこのアルバムは必聴なのです。
孤高の人
★★★★☆
久しぶりのウィントンのスモールコンボでのライブ盤。いい意味でも悪い意味でもこの人は孤高の人なんだなぁというのが実感です。個人的には、エリス.マーサリスとやったstandard time vol.3とかエルビンと至上の愛やったのが好きです。そこには共演者に対するリスペクト、そこからうまれる音楽への愛情がはっきり感じ取れるから。このアルバムでは自分が親分っていう感じが凄くします。Srtandard time vol.1やblues alleyでのライブにはこういう雰囲気はなかった。ちょっとお山の大将っていう雰囲気が伺えます。
技巧は素晴らしいです。本当に凄い。ただ、それをそこまで披露したからと言ってそれが素晴らしい音楽となるかどうかは別だと思う。一曲一曲が長いので、ウィントンの完璧なコントロールとそれによって生まれるある意味冷徹な感覚が必ずしもプラスに作用していないと思います。その意味では昔のフレディの方が良いなと思わせるところもありました。
それにしても、ウィントンのビバップ的なアプローチを排除してあそこまで吹いてしまう強固なスタイルには感服です。それは本当に凄いと思います。この人とがっぷり四つに組んで、相互がリスペクトしあうような状況で音楽を作って欲しいと思いますが、その相手がいないのがこの人の不幸だと思いました。