5年ぶりのオリジナル・スタジオ・アルバムは、一聴したところ相変わらずのキュアー・サウンド満載。しかし、これが17年の歴史を持つバンドの10作目だということを思い出してほしい。曲ごとに万華鏡のように変幻し、まばゆいきらめきを放つものから深い陰影に満ちたものまで自由自在に移り変わる得意のスタイルは、ここにきて極限にまで高められている。しかも、本作ではジャズやメキシカン・ミュージックなどに果敢にトライするチャレンジ精神(というよりは遊び心)も発揮、長いキャリアを持つバンドらしからぬ新鮮な空気、わき立つような生命力があふれている。
確かにそれは、駆け出しのバンドの(かつての彼らが持っていた)切迫感でも衝動でも、怒りでも絶望でもないのだが、咲き誇る満開の桜が今まさに散ろうとしている瞬間のような、ほとんど爛熟の一歩手前のような、きわめてゴージャスな音に触れると、同じように心をかき乱さずにはいられない。ロバート・スミスの歌いっぷりを聴くだけでも十分にわかるだろう。ここにはいい音楽を作り出そうとする、ひたすら誠実な思いがあるからだ。
長い目で見ると、暗たんとしたゴスの時代のサウンドや陰鬱な世界観から過激なまでの変化を遂げている彼ら。最近の定番となった軽やかで鮮やかなポップ・ソングなど、かつては想像もできなかったものだが、つねにロバートの率直な心情を反映させているという意味では17年間全然変わっていないとも言える。そして、ここで描かれているのは成長して安定してしまった大人の心情ではない。まさにタイトルのとおり「荒々しい気分が揺れ動く」ままのものなのだ。