帰ってきた伊達邦彦
★★★★★
大藪作品永遠のヒーロー・伊達邦彦の記念すべき復帰作である。
作中では髪の中に白いものが混じる壮年の男との描写があるが、大藪春彦の破壊精神そのままに、タフかつクール。「野獣死すべし」からのエネルギッシュなパワーも存在している。
大藪春彦後期の作品は不振のものが多かった。しかし、唯一衰えなかったのが伊達邦彦シリーズだ。一度決めたことは必ずやりとげるという基本の信条、そしてストーリーがシリーズ屈指の壮大さを誇る。ついに邦彦は世界を脅かす存在となったのだ。こう考えてみると、「野獣死すべし」「血の来訪者」での計画がちっぽけに見えてしまう。しかし、当たり前なのだ。この一連のシリーズは、邦彦のすさまじいバイオレンスとアクションによって読者に新鮮なカタルシスを与え、なおかつ彼の成長物語でもあるからである。このことより、「伊達邦彦」というハードボイルド界で最も孤高の(文壇でも)主人公が、大藪氏のなかでとくに重要な位置を占めていたということがわかる。
道具立ても実に豪華だ。邦彦とともに復活したスカイラインGTRを駆って高速道路でのカーバトル(「カーチェイス」とよぶには似合わない)、秋月十郎との決戦、美女の肉体。
伊達邦彦が到達したひとつの地点がここにある。ここはとても高い所なのだなと、読了後に感じる。