バーンスタインというアニキ
★★★★★
1961年3月20日 ニューヨーク、マンハッタン・センターにて録音。グールド12枚目のアルバム。
グールドのベートーヴェン・ピアノ協奏曲の録音は、1957年4月9-11日 ニューヨーク、コロムビア30番街スタジオでのバーンスタインとの第2番に始まり、2→1→3→4→5の順に録音され、2・3・4番をバーンスタインと録音している。僕は3曲をバーンスタインと録音したのはバーンスタインに配慮して録音をしたのだろうと思っている。実際は第1番を録音したヴラディーミル・ゴルシュマンと組んだ方がよりよい結果が出たような気がするのに、何故グールドがそうしたか。それはオーストリアやドイツの名門オーケストラに対抗しアメリカにそれ以上の演奏ができるオーケストラを育てようとアメリカの音楽界を創造していった若きマエストロに一役かいたいと思ったからだろう。
クレーメルの『琴線の触れ合い』にも冒頭にバーンスタインは登場する。内気に見えるクレーメルを励ます姿はまさにクラシック界の『アニキ』とも言える存在だったのがよく分かる。そしてここでのグールドの演奏はどこかそういうアニキに花を持たしてやりたいという配慮を感じるのだ。今ではアメリカのオーケストラはヨーロッパの古豪に負けない実力を有しているが、当時のバーンスタインはまるでトスカーナワインをカリフォルニアで実現しようとした『バッチオ・ディヴィーノ』だったのだ。正に創世記の音だ。