読み始めはややとっつきにくいかも
★★★★☆
クロフツ得意のアリバイくずしの倒叙もの長編。
読み始めはややとっつきにくいが、事態の背景が飲み込めてくると、どんどん先に読み進めていける感じになっている。翻訳が新しいせいか、もしくは原著がそのあたりよくできているということであろう。
フレンチ警部が登場するのは、物語も後半にはいったところ、かつ、事件に関わることになったのは相当な偶然によるものになっているが、まあこのあたりは仕方ないところか。メイントリックは、倒叙ものなのでまあこれでよいのでしょうが、なかなか凝った代物。もしかすると、ここでちょっと興ざめする読者層もいるかもしれない。個人的にはおもしろいトリックでしたが。
他のクロフツ作品が好きな人は、たぶんツボにはまると思うので、読んで損はないと思いますね。
翻訳が最後になってしまったことが理解できない快作
★★★★☆
まず、初めに。
本書が、クロフツ最後の未訳長編と聞いて、ちょっと意外な気がした。なぜならーー
数年前にハードカバーで、論創社から「...漂う死体」が刊行され、(私の勘違いでなければ)、最後の一つ前の未訳長編、となるわけでだが、そんなことひと言もうたっていなかったからだ。
だから、まだ数編残っていて、これからは、論創社がハードカバーで刊行し続けるのかな、と漠然と決めてかかっていたからだ。
それはさておき。
本書は、翻訳が一番後回しになってしまったのがよく理解できないくらい、読んでいて面白い。クロフツ乃作品としてはなにか清新な雰囲気が有る。
舞台も、あんまり鉄道や船や時刻表が出てこず、事件そのものはありきたりの遺産相続だとか醒めた夫婦に愛人だとか、道具仕立ては平凡だが、読んでみるとそれなりにスラスラ読める。
私はクロフツのファンだが、正直言って、これまで読んだ長編の中には、なかなか先へ進まず、一ヶ月近くたってようやく読了、というのもあったが、本書は三日程で集中して読むことが出来た。
クロフツを三冊か読んだことのある推理小説愛好家の方は、是非、スルーせずに立ち寄って欲しいと思う。
ちなみに、これを機に、草原推理文庫で版権を所有していて現在廃盤になっているクロフツの全作品を、復刻して欲しい。そして、ヴァン・ダインやクリスティのように、常時カタログに載せておいて欲しいのだ。
最高傑作ではないと思うけど相当面白い
★★★★☆
半分くらいまでは犯罪に加担せざるをえなくなる主人公の話が語られ他の方も指摘してますがそこら辺は普通小説としても読め、図らずも犯罪の片棒を担ぐ羽目になるこの小説の主役に少し同情したくなるほど周辺事情がこってり語られます。といっても主人公にも色々問題があって完全に肩入れはしませんが。後半からフレンチ警部が登場、些細なことから犯罪のにおいを嗅ぎつけ、捜査が始まり倒叙もの推理小説ぽくなります。
解説で指摘されてる通り一般的倒叙ものと違い犯罪の主犯ではなく共犯の側のドラマが描かれていてそこが実験作風に思えますが、あまり作為的にならず、普通に読めるところがミソだと思いました。推理小説の文学化を考えていたというチャンドラーが同じ時代の他の作家より注目していたのもこの辺の実験精神や倒叙もの特有の人間ドラマだったのかも。推理小説の枠、可能性を拡げようとしていた姿勢は偉いと思います。出版された1938年頃は他に「そして誰もいなくなった」、「レベッカ」、「ある詩人への挽歌」等がでてますが、作家同士お互い刺激しあいながら色々書いてたみたいですね。
これでクロフツは全て日本語で読めるそうですが(日本の方がファンが多い?)、何れ全ての作品が新約や新版で読めるようになるといいですね。蛇足ですが、故・瀬戸川猛資さんが好きな作家で老後の愉しみにとってあると言ってたとか。もう少し長生きできたら全部読めたのにと思うと尊敬していた身としては悲しい・・・。
傑作!
★★★★★
邦題は安っぽいけれど中身は一流。
翻訳の良さも手伝ってか、読み易い。
ディクスン・カーの作品のように余計なおしゃべりもないし
ストーリー展開がストレートなので
ミステリの素人にもオススメできるのではないか。
終盤一寸駆け足になるのが難点といえばいえないこともないが
それを補って余りある味のあるお話で、ミステリとしてだけではなく
人間悲喜劇として読むこともできる「文学作品」である。
実はクロフツを読むのはこれがはじめてなのでうれしい巡り合いだった。
ヴィンテージミステリはやはり読んでおくべきものとあらためて感じさせられた。
絶版となっているクロフツ作品も復刊して欲しいものだ。
面白い!!
★★★★★
読み応えがありました。途中からの展開もびっくりでした。ラストを明確に書かないところがまた良いですねえ。ちょっと変わった倒叙推理小説で、マニアの方にはオススメです。