そのようななかで選ばれたのが、ジョン・チーバー(「The Five-Forty-Eight」)やジェイムズ・サーバー(「The Catbird Seat」)、メーブ・ブレナン(「I See You, Bianca」)、アイザック・B・シンガー(「The Cafeteria」)、ジャメイカ・キンケード(「Poor Visitor」)をはじめとする、優れた作家たちである。「ニューヨーカー」の読者といえば裕福、毛皮といったアップタウンのイメージが強いが、初期のアップダイクから中期のタマ・ジャノウィッツに見られるように、「14丁目以南」も多々登場する。といっても、ここで問題にしているのは単なる地理的なものではなく、作品における都会的精神だ。この短篇集では、多様でありながら、共通点も併せ持っているニューヨークが描かれている。そう言われれば、ジョン・チーバーの戦後の楽園と、アン・ビーティのヤッピーの溜まり場が、かけ離れたものではないこともおわかりいただけるだろう。ジェイムズ・スティーブンソンによる、洪水に襲われたニューヨークの様子を見てみよう。
いま私たちは屋根の上にいる。時間はまったくわからないが、日が出ている。丈の低いビルは水中に沈み、企業の高層ビルは高く押し寄せる波から顔を出している。まるで墓石だ。セントラルパークの方角には白波がたっている。パンアメリカン航空のビルのそばにしばし停泊していた一隻の遠洋定期船は沖へ向かった…。天窓のあたりで水が渦巻いている。風向きが変わる。大西洋からは波がまっすぐ押し寄せてくる。