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目くらましの道 下 (創元推理文庫)

価格: ¥1,050
カテゴリ: 文庫
ブランド: 東京創元社
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ヴァランダー警部の個性がにじむ、CWAゴールドダガー受賞の出色の警察小説 ★★★★★
ヘニング・マンケルは<ヴァランダー警部>シリーズの第5弾に当たる本書で、英国におけるミステリーの頂点、「CWA(英国推理作家協会)賞」’01年度ゴールド・ダガー賞(最優秀長編賞)を受賞した。’95年に本国スウェーデンで刊行、のちに英訳された結果であるが、これによりマンケルのミステリーが初めて英語圏で評価された記念すべき作品である。日本では’07年、「このミステリーがすごい!」海外編第9位にランクインしている。

農家からの苦情で、菜の花畑に駆けつけたヴァランダー警部は、自らガソリンをかぶって焼身自殺を遂げた少女を目の当たりにしてショックを受ける。追い打ちをかけるようにして殺人事件発生の報せが。被害者は元法務大臣で、背中を斧で割られ、頭皮が髪の毛と一緒に剥ぎ取られていた。さらに、画商、盗品売人、公認会計士と、同様の手口でさらにエスカレートする残虐な殺人が続く。ヴァランダーの指揮のもと彼らの共通のつながりを求めるイースタ署の捜査は難航する。

犯人は物語のはじめのほうで明らかにされるのだが、そのことが、本書をして単なる犯人探しの謎解きを超えた興趣を醸し出している。犯人側の犯行にいたる行動が差し挟まれ、そして捜査側が不可解な連続殺人事件を解明するという巧みなプロットの構成の妙もさることながら、私たちがふつう北欧の福祉国家として認識する現代スウェーデンが抱える社会問題を浮き彫りにしているような気がする。それは少年犯罪だったり、外国から連れてきた少女売春問題だったり、盗難車の密売だったりするのだ。

本書は、そういった社会情勢をひとつの犯罪によって切り取った出色の警察小説といえるだろう。

また、物語のそこかしこに散りばめられたヴァランダー警部のプライベート描写、父親との関係、娘を思う心、恋人との夏の休暇がこの事件でどうなるか苦悩する姿、とりわけ溜まった汚れ物を洗濯したり、車検のアポイントを取ったりするくだりは、ユーモラスでさえあり、彼の人間臭さが滲み出ていて、シリーズものならではの、ヴァランダーその人の個性が、この作品の微妙ないろどりとなっている。
警察小説の秀作 ★★★★★
マイクル・コナリーやT・ジェファーソン・パーカーなど最近の警察小説のいい作品は多いが、この作品も心に残る。特に、このエピローグにすべてが集約されていると感じたね。特異な残虐事件、丹念な警察の捜査と信頼できる同僚たち、そして主人公のヴァランダー警部の仕事には強く個人的なことには弱い?人間性、これらすべてが合わさっての魅力だと思う。物語のところどころに犯人側の行動が描かれて、犯人の名前以外はほぼ明らかになってくるのだが、ここまで明かしていいのかなと思った。最後まで真犯人は実は・・・の含みを持たせたほうが良かったのではないかなと、素人ながら思う。無論この作品の評価を揺るがすものではないけどね。
不覚にも涙が! ★★★★★
ヴァランダー・シリーズのおそらく最高傑作になるでしょう。物語はディーヴァーのようにジェットコースター並のスリルとサスペンスがあるわけでもないのですが、事件そのものがもの悲しく、切々として人の心を打つのです。犯人を追うヴァランダー自身が人間の奥底で常に犯人を理解しようとするその姿に心打たれます。父親とイタリアに旅行する話では不覚にも涙がこぼれました。犯人逮捕までの警察小説ならば、単に面白いだけで終わるのですが、犯人が明かされ逮捕された後の、僅か20ページ足らずのエピローグが秀逸なのです。泣かせます。まるでこれを書くためにこれまでの物語が展開されたようにさえ思えるのです。単なる警察小説ではない心の叫びが聞こえるような小説です。