微積分学誕生の経緯を分かり易く、厳密に語った遠山啓氏の名著−−この本を高校生に薦める
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名著とは、この本の為に有る言葉であるに違い無い。この本は、数学者で、教育問題にも関心の深かった遠山啓氏(1909−1979)が、最晩年に、市民大学で行なった連続講座を、遠藤豊、榊忠男、森殻、の三氏が監修して、多くの図と共にまとめた本である。題名が示す通り、その内容は、コペルニクスの地動説からガリレオ、ケプラーの業績を経て、ニュートン力学と微積分学が誕生するまでの流れを、分かり易く、しかも厳密に語った数学と科学の歴史である。序文の中で、数学者の森殻(もりつよし)氏は、こう書いて居る。(以下引用)−−たとえば、瞬間速度というのは、速度計を見なれた現代人には日常的なものとなっているが、その概念の成立が力学ないしは微分学の成立の画期となったと言われている。それで、現代の日常感覚の基礎として、しかも歴史感覚と結合させながら、近代数学の成立のドラマを語って、数学と思想の分離を回復すること、それがこの講座で遠山が試みたことと言えよう。たんなる力学や微積分学の習得のためでもなく、また、たんなる近代科学史の史実の物語でもなく。考えてみれば、現代において、数学のために、もっとひろく科学のために、こうしたことが強く求められていないか。科学が制度化されればされるほど、こうした原初の日常感覚への復帰が必要でもある。(本書3ページより)−−全く同感である。そして、遠山氏も、森氏のこの言葉に同感であるに違い無い。
この本の内容は、高校生が学校で習ふ数学や物理学と重なる部分が大きい。「ゆとり教育」による教育の荒廃が深刻化する中、読み易く、図が豊富で、しかも厳密なこの名著を、特に、高校生に推薦する。
(西岡昌紀・内科医)