ブルックリンのある高校で、生徒たちは単位履修の一環として落書きの腕を磨く。アイビーリーグのある法学部教授は、雇い主から盗むことを黒人に奨励する。ワシントンの官僚たちは薬物中毒者による窃盗は無能力の証拠であり、したがって公共機関から援助をうける正当な権利があるものとみなす。公衆衛生当局者は人種差別と性差別が女性のエイズ感染を引き起こすと主張する。アメリカ随一の知の記念塔であるスミソニアン博物館では、科学が白人の宗教として扱われている。
こうしたばかげた現象は、数十年にわたってアメリカの公共政策の基準となってきた強力な一連の思想に起因している、とマクドナルドは主張する。そして、そうした思想はアメリカがきわめて不公平な社会であると確信する大学教員や専門職のエリートたちが作り上げたものだという。
こうした信念は国家全体に損害を与えたが、とくに貧しい人々をひどく傷つけたと著者は述べている。当初は個人の責任と機会、学習について自信たっぷりに主張していた有力なオピニオンメーカー(たとえばニューヨーク・タイムズ紙)と巨大な慈善事業団体が、福祉国家を擁護する立場に変わっていった過程が本書で追跡され、報告される。ニューヨークの街角から知の権力者の牙城にいたる一連の物語を詳細に語るなかで、『The Burden of Bad Ideas』は、混乱した世界の現在と、そこに至った過程を明かしていく。