推理小説の生みの親
★★★★☆
現在親しまれている「推理小説」という呼称を初めて使用したといわれている木々高太郎の作品集。
医学者らしく、精神分析の手法を小説に取り入れようとしているのが特徴です。
当時探偵小説界の重鎮であった甲賀三郎の「探偵小説非芸術論」と木々の「芸術論」との論争からも分かるように、探偵小説を文学としても高いレベルに到達させようという高い志を筆者は持っていたようです。
その姿勢は当時の探偵小説界としては異例の直木賞受賞からも伺えます。
現在の水準から見ると、推理小説とは呼べないようなものがあったり、上手く事件と内容が調和していないものも見受けられますが、彼の高い理想が後進の作家たちに与えたであろう影響は見逃せません。
歴史的な価値だけではなく、『文学少女』等の印象的な短編も含まれていますのでぜひ御一読を。
素敵な時間を満喫しました。
★★★★★
なんて素晴らしい人間観察!
はじめて読んだ木々高太郎作品一作目の『網膜脈視症』
大心地先生の診察室に来た子供の症状(動物恐怖、神経症、エディプス・コンプレックス等)の、その病の向こう側にある事件を、見事な慧眼で分析された。
悲しい別れが遭ったのが切ない・・・
『眠り人形』は《ねむり妻》と同じ事件でありますが、
犯人による告白書(ヒューマンドキュメント)でページが埋まり、とても濃い一篇となっております。
《ねむり妻》では、事件の外周(刑事の捜査、登場人物の動き)を窺えるので、併せて読むとより作品が愉しめると思います。
なんといっても『文学少女』は忘れられません。
苛酷な運命に翻弄されながら、ただ純粋に文学を愛したミヤの姿が。
ミステリィよりも、文学的な薫りが漂う作品です。
あのラストはドキッとくるほどだった・・・
『バラのトゲ』は、大心地先生の講義を受けてるような感じで、
読みながら実習学生の一人になったみたいでした。
人間心理がいかに複雑か、思い知らされました。
この木々高太郎集では、大心地先生の分析の巧さに脱帽しますが、
そんな先生でも、最後の最後で、
『人間と人間との関係の、いかにもむずかしいこと』
と説いている。
ほんとですね。
人間って、こんなに複雑で、難しくて・・・
もっと紹介したい作品がありますが、このへんで割愛します。
素晴らしい小説をありがとうございました。