また、自分本位な狭い戦略論ではなく、相手や取り巻く組織との関わりや、ひいては自分自身の位置付けについても客観的に捉えて書かれている点も特徴的である。「話をまとめる」系の本に感じられる、「これを実現しなければ」、「相手を説き伏せなければ」といった、ストレスじみた感覚が、この本の中には全くない。読んでいると、あたかも明確なシナリオのもとに配役を振られたあらゆる登場人物によってドラマが展開され、それがシナリオのもとに終結するような、客観的な世界の作り方について書かれているように思え、筆者が、「話"が"まとまる」と題した意図を感じる。そして、現実世界においては、決して不自然で無理な圧力によってではなく、より自然な原理・ベクトルによって「話がまとまる」のだと思うので、その意味で本書は非常にリアルな内容であると言える。
示唆に富んだ内容ばかりだが、特に私が重要なポイントだと感じたのは以下の3点。
○自己犠牲的に「相手主義」に徹する前に、まず「自分主義」にケリをつけること。
○「現実」と「ビジョン」を、それぞれ細分化してより具体的にイメージすることによって、双方の間に「緊張構造」を作ること。イメージができることによって、その「緊張構造」は、あたかもゴムのように自然に引き合うものである。
○現在から将来を展望するのではなく、将来から現在を見ること。それによって、将来ビジョンがより曖昧なものでなくなる。
生き方そのものついての参考にもなりますし、何よりもコーチングにも通じる基本的な原理がわかりやすく紹介されています。
例えば、
「相手主義」(相手のことを考えるのではなく、相手の立場になりきり、相手の視点で物を考えること)
「意図して意識しない」(物事の実現をはっきり意図して行動しながら、結果の良し悪しを意識せずに目の前の現実に集中すること)
「緊張構造」(実現したいビジョンや目標と、それに対応する現実との間に生じる構造的な関係のこと。ビジョンと現実を結びつけ、そこに生じる緊張構造を保ったときにダイナミックで創造的なエネルギーが生じる)
最後の「緊張構造」を用いて、なぜ、目標、ビジョンを描くのか? なぜ、現状をしっかりと認識することが必要なのかが、とてもわかりやすく紹介されています。
単なる質問のテクニックなどではなく、その奥にある原理的なものを紹介しています。
だからこそ、応用範囲が広く、ファシリテーションやコーチングはもちろん、いろいろな場面で活用できます。
170ページほどの薄い本ですが、とても歯ごたえがあってお買い得の本です。