文句なしにおもしろい
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松平忠輝は家康の六男。容貌魁偉な鬼っ子に生まれついたため、田舎の小大名の養子に出されます。自由気ままな野生児は、家康の剣法の師奥山休賀斎に預けられ、りりしい若武者に成長。やがて家康に認められて大大名に取り立てられ、伊達正宗の息女いろは姫を正室に迎え、強力な後ろ盾もできました。ところが、将軍秀忠は人間ばなれした才能をもつ忠輝を憎み、腹心の柳生宗矩に命じて執拗に忠輝の命を狙います。
忠輝は誰とでもわけ隔てなくつきあい、飛び鎌を使う忍び才兵衛、剽悍な傀儡子一族に心服されます。鬼っ子自身、「剣術絶倫、化現の人」なのですが、味方の多い忠輝は、暗殺者集団裏柳生のたび重なる襲撃をかわしつづけます。その死闘のシーンも読みごたえがありますが、忠輝の周辺で繰り広げられる謀略が実におもしろい。忠輝をかつぎ全国70万のキリシタン武士を動員して天下取りを狙う大久保長安、長安謀反の罪を忠輝、正宗らに着せたい秀忠と宗矩。忠輝を守るため秀忠の寵臣大久保忠隣の失脚をはかる家康。想像力豊かに組み立てられたフィクションと史実を渾然とないまぜた伝奇的歴史小説の傑作です。