人はなぜ旅をするのか
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を人生と作品において追求し続けたチャトウィンの大作。
人生において無性に旅をしたくなった時に読む本。
旅に惹かれる人にとっては必読の書だと思う。
ちなみに、絶版になっていた本書を新訳で世に問うた英治出版には心から敬意を表する。
訳は読みやすいし、本のつくりが良い。
特に、チャトウィンのノート引用部分の体裁を変え、「ノート」の雰囲気を醸し出した体裁は素晴らしい。編集者にも拍手を送りたい。
旅とは
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およそ500ページにも及ぶ紀行文学の超大作。
タイトルの「ソングライン」とはアボリジニの部族内で継承されているため、一般的にはその実態を世間へは広められていない。
そのためにある程度、理解するには想像力を必要とする。しかし、チャトウィンの豊かなまでの素晴らしい表現がわかりやすく案内してくれる。
世界中を旅したチャトウィンが経験したこと、学んだことを通して人類の根源や本能、また旅や人生について再考させられる作品である。
多忙を極め旅へと出かけるのは難しい現代人にとって、本書は読者の「内面への旅」へ出る、この上ない機会となるであろう。
アボリジニを通して、旅をえがく
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世界中を縦横無尽に旅したブルース・チャトウィンの代表作。
読むにあたって専門知識は必要ない。読み進めるうちに荒涼とした乾燥地帯としか思っていなかった中央オーストラリアに、目に見えない無数の道・ソングラインの姿がうっすらと、そしてだんだんと具体的に浮かび上がってくる。
「先祖の足跡」と呼んで伝承してきた歌の記憶をたよりに進むことで必ず目的地にたどりつけるという、アボリジニ独特の文化。
本来の簡素さに立ち返るのは、現代の文明から遅れているのではないと示し、ソングラインは世の中で機能しているあらゆる機構の原型であると説く。
現実と虚構の狭間をうつろうような本文に流れる空気は、見知らぬ世界観への戸惑いと相まって、目に見えている実像よりも世界はもっと広く深いということにめまいを覚させる。
世界中のあらゆる時代の旅、放浪について考察された多々のエピソードが、現代の読者も多かれ少なかれ抱いている旅への衝動と共鳴し、広い視野へいざなうきっかけとなるだろう。
「歩きつづけること」の意義を後世に語りづぐ名著。
モレスキン好きにも!
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まず、モレスキンの広告でチャトウィンを知った自分としては、
「ノート」についての文章が何箇所か登場するところが嬉しかった。
内容としては、
『パタゴニア』と同じで、
新大陸に行き、そこの移民たちと会い、そのルーツを語り、
また、チャトウィン自身の過去の旅のエピソードや、家族の思い出も重ねられていく。
もちろん、アボリジニの「ソングライン」が主題ではあるんだけど、
そこにいたるまでのプロセスや、「周辺」が書かれていて、
旅に出ていく時の緊張感とか、日常から抜け出しそうですぐに抜け切らなくて、思いも寄らないことが頭をよぎる感じとかを思い起こされる感じで、面白かった。
後半は、彼の「ノート」から、古今東西の旅や移動についてのテキストや、過去の旅のエピソードが大量に引用されて織り込まれていく。で、そういう引用が、土地を「ソングライン」が連なりあう網状のものとして捉えるアボリジニの世界観とつながっているようで。。。
それでまた、時空が歪んでいく感じを味わえる。
他の作家では味わえない、チャトウィンでしか味わえない味が濃厚につまった秀作だと思います。
シリーズ オン ザ ムーブ
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チャトウィン氏が放浪の旅路で力尽きてから長らくの時間が経過しました。
「ソングライン」の出版で氏の再評価がされることでしょう。
彼が今の時代に投げかけたクエスチョンはあたりまえの生活に満足や不満も抱かずに歩みを
やめてしまったことへの警鐘ではないかと思うのです。
旅の舞台は中央〜西部オーストラリア大陸、アボリジニによる謎めいた天地創造を氏自らが
追いかけます。遊歩(ウォークアバウト)を好む彼らは道すがら自然界のあらゆるものと同化すべく歌(ソングライン)を詠みつづけます。
作品で面白いのは所々で挿入される彼の「ノート」の存在で物語や風景が立体感を帯びることを演出しています。
子供だった頃、虫を眺めたり葉っぱをいじったりの記憶がよみがえりました。
私たちは世界を知るための、長い旅の途上にいるのかもしれない。
大きなメッセージを受ける秀作です。