上質の音楽 知性の感じられる歌唱
★★★★☆
小学校や中学校で歌ったり聴いたことのある「ヨーロッパ愛唱歌集」を20曲収録したアルバムです。懐かしい曲がある一方で、珍しい曲も結構収めてあり、その意味においても今なお価値ある企画だと思っています。作曲家もそれぞれの歌の出自も多彩ですから、1曲ごとに趣が違うので飽きません。
20年前に発売された時と比較して3分の1以下の値段というのも魅力でしょう。音楽の価値は減っていないはずですので。
1987年4月7〜9日にかけて日野市民会館で収録されました。ピアノ伴奏は夫であるヘルムート・ドイチェで、いつもながら息のあった一体感を感じます。収録時、鮫島有美子は30代半ばで声楽家としての実力と人気を兼ね備え、様々なアルバムを世に問うた頃です。
ヨーロッパのオペラ・ハウスで活躍している彼女らしく、ドイツ語、ラテン語、フランス語、ポルトガル語と多彩な言語で歌っていますが、ほとんどは日本語で歌われています。
サティの「ジュ・トゥ・ヴ」の軽やかさと艶やかさは絶品です。センティルマイの「ジプシーの歌 (この世にただひとり)」は、チゴイネルワイゼンの中間部の旋律で、元歌の収録というのは珍しいはずです。
日本の声楽家が陥りがちな点は、ベルカントを意識するあまり、日本語が崩れてしまうことがありますが、鮫島有美子の歌唱は日本語の美しさという点が優れています。聴きとりやすい発声でありながら、良く響くソプラノですので、違和感を全く感じません。仰々しい表現はなく、全体的に丁寧でレガート唱法ですから、メロディが滑らかにつながっていきます。音楽の表現に知性が感じられる点も彼女の魅力です。歌詞と音楽の構成の理解力に優れているからこそ、様々な曲を取り上げられるのでしょうから。