今までテネイシャスDのファンではなかった人は、本作『The Complete Master Works』を見て、たちまち信者に変わるかもしれない（でなければ、拒絶反応を起こすかもしれない――どっちになるかは神のみぞ知る）。ひとつ確かなことがある。テネイシャスDを単なる変わりダネのコンビと思っているなら、この2枚のディスクがその考えを改めるだろう。きちんとトレーニングを積んだギタリスト、カイル・ガスと、人気急上昇中のコメディ・スター、ジャック・ブラック（『スクール・オブ・ロック』）は、れっきとしたアコースティック・パワー・デュオだ。彼らは、風刺の効いた情け容赦ない歌詞でポップ・カルチャー・シーンをこき下ろす一方で、正規のミュージシャンに負けない高度な演奏技術を誇り、ついでにステージ上で暴走できるだけの異常さも持ち合わせているのだ。ディスク1（“ファンのために”とある）は基礎編で、素晴らしいコンサート（2002年11月3日、ロンドンのブリクストン・アカデミーにて収録）から構成されている。ここでブラックは迷惑なおとり捜査官に扮し、わざとガスの機嫌を損ねようとする。観客は皆ひどいヤジを飛ばし、雰囲気は最悪（もちろんヤラセなのだが、真に迫っているので頭の悪い人はだまされそう）。音楽性は第一級だ。ブラックのボーカルは元気いっぱいで、スキャットとヘヴィメタへの傾倒を器用に織り交ぜた芸風が売りだ。また、HBOで放送されたエピソード集では、駆け出し時代のテネイシャスDを見られる。彼らの人気がまだLA限定だった頃の記録だが、それこそチビりそうなぐらい爆笑できて、期待を裏切らない。
   ディスク2は、“サイコファンのために”とあるように、真の愛好家に捧げられており、レアものがそろっている。中でも、HBOで放送された3つの短編映画は超下品（そして超笑える）。これに比べれば、ファレリー兄弟の映画なんて行儀のいい方だ。テレビ出演時の演奏曲は一部コンサートと重複している。ビデオ日誌「On the Road」は粗っぽい作りだが楽しい。さて、最高のお楽しみは最後に用意されている。2つのミュージック・ビデオが、それぞれ短いメイキング映像付きで登場するのだ。スパイク・ジョーンズ監督によるファンタジー・ビデオ「Wonderboy」と、『レン & スティンピー』のアニメーター陣によるヤバすぎるアダルト・ビデオ「FHG」（スケベなファンなら、この曲名が何を意味するか分かるはず）がそれである。もし不愉快な思いをしても、“ケイジ”と“ジェイブルス”を責めないことだ――このDVDのジャケットには“Parental Advisory（保護者の指導が望まれる）”のスタンプがはっきりと見える。エロが苦手な堅物諸君は見ない方が身のためだ。（Jeff Shannon, Amazon.com）