ヒマラヤの鋼鉄のような山嶺と満月、ケニアの草原の月光に浮かぶライオンやキリン、青白く光る白い花、溶岩流の赤を照らす月光の青、雪解け水を集めて流れる高原の源流。長時間露出のため、水が白い光のもやとなって、まるでサテンの長い布地が風をはらみゆらめいているよう。その岸辺に蝟集(いしゅう)する石。濡れてぬめった大粒の石たちは、いま目覚めた原生動物みたいにエロティックである。
星座、十五夜、ホタル狩り、夜祭り。幼き日の夜に浮かれた記憶。慣れ親しんだはずの眺めが、昼とは違って見えなかったろうか。月の満ち干が、じゃがいもの発芽に作用しているという科学記事があった。かたく閉じた種子の闇に、月光が届いていたということだ。月光を浴びた地球という大きな種子をとらえたカメラのレンズを、讃えたい。(中村えつこ)