現代ミステリーの根幹
★★★★★
「私はこの事件の加害者であり、被害者であり、探偵でもある」
こう書くとフランスの有名なミステリー「シンデレラの罠」をイメージされる方が多いかもしれない。
実は「シンデレラの罠」が発表されたのは1962年、
「猫の舌に釘を打て」はその1年前の1961年の作品。
この作品の方が先行しているのだ。
「ミステリー作家は都筑道夫氏が好きな人が多い」との話を聞いたことがあるが、納得。
この作品のトリックのアレンジが後年たくさん登場している。
1961年当時が舞台のため、貨幣価値や法律が現在と異なるようで、
想像でカバーしなければいけない箇所も出てくるが。。。
とても50年前の作品とは思えない。
名作は色褪せないものです。
キャッチ・コピーは牽強付会の感が強いが、楽しめる作品
★★★★☆
本作のキャッチ・コピーは「私はこの事件の犯人であり、探偵であり、そしてどうやら、被害者にもなりそうだ」。S.ジャプリゾ「シンデレラの罠」に対抗するかのような意匠。語り手の主人公はミステリ作家で、有紀子と言う人妻を愛している。このため、その夫の塚本を憎んでいるが、何も出来ず、代わりに喫茶店で後藤と言う男を有紀子の風邪薬を使って毒殺ゴッコする事でウサを晴らそうとする。ところが、その風邪薬を入れたコーヒーを飲んだ後藤が毒死してしまうと言う発端。これが犯人役。風邪薬は元々有紀子用だから、有紀子の命が狙われていた可能性もある。その捜査が探偵役。捜査の結果、真犯人に殺されるかもしれないので、これが被害者役。三役バラバラで、「シンデレラの罠」に比べてトリッキー度はだいぶ落ちるが、代りに作者の博識ぶりとミステリ談義が楽しめる。
記述の大半を主人公の手記が占めるので、ここに仕掛けがあるとも考えられるが、一応素直に読む。主人公の頭は有紀子onlyだが、冷静に考えれば最初から後藤を狙った犯行に見える。物理的にそれが可能なのは、後藤の両隣にいた主人公と大野木、そして喫茶店のマスター。しかし、作者は主人公の行動を追いながら、悠揚迫らぬ態度で昭和中期の東京の風景・世相を描き出す。作品が恋愛絡みと言う事もあり、「墨東綺譚」を思わせる趣き。
そして、有紀子が殺される。今度は犯人足り得る人物は一人だけ。これでは冒頭のキャッチ・コピーは牽強付会の感が強いが、昭和36年にこのアイデアに挑戦した作者は評価されてしかるべきだろう。適度な薀蓄や時代の雰囲気も楽しめ、ミステリ・ファンにはお勧めの一作。
表題作は傑作だが全体としてのまとまりはない
★★☆☆☆
表題作は宣伝文句にあるとおり傑作推理小説だと思います。
ただ、他の作品はミステリーというよりは昭和30年代の東京の風俗を描いたものが多く、ミステリーを求めている人には期待はずれでしょう。
文庫本の編集方法としては表題作ときちんとミステリーになっているものを選んで収録すべきだと思います。