模倣の歴史から革新へ
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民族的、文化的、宗教的な伝統を固定して統一された国家、及び、創造的な生き方を求める個人には、ガブリエル・タルドの『模倣の法則』は革命的な激しさが潜んだ歴史に残る1冊である。
p138 社会とは模倣であり、模倣とは一種の催眠状態である。
p250 英語は、文法的にはきわめて貧弱ではあるが、外国から輸入したあらゆる言葉を、語尾を少し変更する(これは言語学上の洗礼である)だけで併合してしまう。
p440 実際のところ、発明にはある面で偶然的な性質があるが、発明者自身はきわめて模倣的である。どの時代でも発明の潮流があらゆる領域(宗教、建築。彫刻、音楽、哲学、等々)で起こるのはそのためである。
タルドによって、伝統や文化の伝播が解き明かされ、新しい時代を築く思想的な礎として重要な役割を果たしているものである。
『模倣の法則』は、時代を衝き動かす可能性を秘めた名著である。
※ 僕は、1日30ページほど読むのがやっとで、期間としては2ヶ月の間で、読みきるのに約15日ほど掛かりました。脳の筋力トレーニングをしているような気持ちになりましたが、かなり忍耐力を必要として鍛えられた感じです。社会学を研究されている人には、一読の価値があると思います。
現代のための古典
★★★★★
これまでタルドについては、「世論と公衆」を書いた一九世紀末の群衆理論家
のひとりで、デュルケムに論破された過去の社会学者というくらいしか知識があ
りませんでした。ところが、今回の「模倣の法則」を読んで、その内容が非常に
に現代的なことに驚きました。
ひとりひとりのコミュニケーションをつうじて社会は変化する、というとあま
りに単純ですが、その単純な事実から出発して、そのメカニズムと帰結を詳細に
論じた本書の思想は、まさにグローバル化とインターネットの時代になって、よ
うやくその意味がわかるものになったように思います。
差異(発明)と反復(模倣)という社会原理を探求するタルドの思想は、まさ
に「差異と反復」の著者であるドゥルーズが自分の著作でときどき参照していま
すが、難解なドゥルーズの哲学よりもわかりやすく、むしろよい入門書になって
いるように思います。
翻訳の日本語もていねいで読みやすく、一気に読めました。訳者二人の解説が
とても参考になるので、本文を読む前にそちらを読んでおくことをお勧めします
。できれば文庫版で価格も安くなってほしいです。