原爆被害の総括
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広島の原爆ドームを見て、原爆被害の概略を知りたく思い、読みました。
確かに、原爆によって、被爆者個々人また地域社会がどのような被害を受けたのかを、
客観的かつ公平に記述して、全体像を簡潔に描き出しています。
ただ、医学的記述がかなり詳しく、医療関係者以外だと、そのあたりは一般読者が読み通すのに
少し苦労するのでないかと思いました。また精神医学的側面がほとんど書かれていないのは、
この本が書かれた当時(1986年)の研究の現状だったのか、著者が放射線医学の権威だったせいでしょうか。
核問題が、依然と全人類的問題であること、まだ探求されていない領域がたくさん残されていること
を教えてくれます。
読むべき人間に読ませるには?
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客観的な記述に終始しているが故に説得力に富む本。被害状況の記載よりも科学的・医学的記載に重点が置かれ、その記述が半分を占めることがそれを端的に示している。西岡氏のレビューにも触れられているが、はじめから翻訳を前提として出版されたそうである。現在、海外でどのくらいの部数が出ているのだろうか、気にかかる話である。
原爆の悲惨さを伝承してゆくだけでは核兵器はなくならない。それは残念ながら事実である。しかしそう声高に語る人間は、必要条件と十分条件を混同している。本書のような本の存在は核廃絶の十分条件ではなく、必要条件であるというだけの話だ。わたくしは、現在のように「核を持つことが大国の条件」という価値観から「核を持たないことこそが尊敬される国の条件」というように、パラダイムシフトが起きることが核がなくなる条件だと考えるが、そのためにはやはり本書のような存在は欠かせないと思われる。もちろん、それだけでは十分ではないが・・
現在アメリカは実戦使用できる小型戦術核を開発中だという話だが、ネオコンのように「本当にこの本を読ませたい」人間たちに本書を届けるにはいったいどうすればよいのだろう?
まず第一歩はわれわれが手に取るところからはじまるのだろう。
広島と長崎についての必読の書--書かれてない事実も有る事は残念
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原爆についての必読の書である。全ての人にこの本が読まれる事を期待する。--本書は、広島市と長崎市が、原爆災害誌編集委員会の作業によって、まとめた、広島、長崎における原爆の被害に関する詳細な記録である。出版当時の広島、長崎、両市の市長が書いた本書の前書きに依れば、アメリカ、イギリス、の出版社から英語版も出版された本書は、海外でも、権威有る学術書として、高い評価を受けて居ると言ふ事である。内容は、広島、長崎両市に原爆が投下された直後の状況の記述に始まり、当時の日本の行政、医療が、これにいかに対応したかを述べ、原爆の被害を、詳細な科学的データと共に記述、解説する内容に成って居る。更には、被爆者のその後をも、詳細な医学的データ等と共に解説した本書は、広島と長崎で起きた出来事を科学の言葉で語ったハンドブックであり、原爆を知る上で、必読の一書である。本文は、深い文章であると同時に、平易で分かり易く、被爆直後の写真や地図、グラフ、表、が多い事も、貴重である。その一方で、これは、本書が、アメリカとイギリスで出版される事を意識した結果かどうかは不明だが、戦後、占領下の広島と長崎で、アメリカが、被爆者の医学的記録を押収した事や、占領下の日本で、原爆に関する医学的調査、研究の発表をアメリカが規制した事などへの言及が無い。--アメリカが、占領下の日本において、原爆に関する科学的調査を妨害した事は、戦後、南太平洋やネバダの核実験で被爆した、アトミック・ソルジャーと呼ばれるアメリカ兵達の悲劇の原因である事からも、看過されてはならない事で、英語版が同時に出版された本書でこそ、語られるべきだったのではないだろうか?--貴重なハンドブックであるだけに、その事だけは、残念である。
(西岡昌紀・内科医/広島と長崎に原爆が投下されて60年目の夏に)