著者による、「悪」「人間」についての考察小説。
★★★☆☆
まずこの作品は、他の方が書かれているように、ミュージカル「wicked」の脚本とは全くの別物です。それをふまえて読まれた方が良いと思います。
ほぼ全員の登場人物の辿る運命、背負った環境、物語などが、ミュージカルとは全く異なっているので、ミュージカル「wicked」で描かれた物語の、さらに別筋を読んでいるような気分になりました。(もちろん、順番で言えばこちらが先ですが。)
少なくともミュージカルの脚本あるいはノベライズされたものを読もうと思う方、「ミュージカルで描かれたオズの世界」をもっと知りたいと思って読まれる方は、おそらく当てが外れたと感じるのではないかと思います。ミュージカルの台本は、この作品で描かれた「オズ」観や「魔女側からの言い分」という独特の視点を、さらにミュージカルの舞台に向くよう脚色し、ふくらませて独自の味付けを加えた、小説とは別個のものと言えると思います。
ただし、根っこのスタンスや、「悪といわれているものが本当に悪か」などの問いかけを持っている所は同じなので、完全に別物とも言い切れないですが…。
言ってみれば似てない二卵性双生児みたいな感じ…?原作の方がもっと広く「悪」と「罪」について、いろいろな方面からいろいろな問いかけをしています。
(宗教上・信仰上の悪、家族に対しての悪や罪、存在自体が「罰」であること、行動上の悪、「悪」に「悪」と同じ手段で報いることは「善」か、行動を伴わない「悪」はあるか、存在自体が「悪」ということはありえるか、など。)
この作品で描かれているオズの世界は、貧困、人種(この場合「動物」も含む)差による侮蔑的な扱い、無知による人々の凶暴さ、宗教や信仰の問題、プロパガンダ、階級、暴力、権力による圧力、見栄、お金、階層社会、殺人、軍隊による残虐行為など、現実の世界が抱えてる問題の醜い部分をそのまま持つ、現実的で窮屈で、のっぴきならない世界です。
ミュージカルの「オズ」が持つ暗い一面を、百倍くらい濃縮したのがこの「小説オズ」の世界です。
古いファンタジーが持つ「善良さ」「全てが不思議の内に丸く収まり、概ね幸せな方向に導かれる」という特権は完全に捨て去られています。
オズという、閉じた小さな世界が舞台なだけに、これらの困難はより重苦しく、耐え難いもののように感じられます。
主人公のエルフェバもグリンダも、ミュージカルで描かれたような「ただ翻弄され利用され巻き込まれただけの人格円満で善良な人間」ではなく、彼女たちの友情もミュージカルで描かれたような、理想的で感動的なものではありません。
また、登場人物たちの人間関係や道行き、また物語自体の終焉もミュージカルとは全く違ったものになっていますので、ミュージカルが好きで読まれる方は心して読まれる方が良いと思います。
この作品は、いわゆるファンタジー小説というより、ファンタジーに仮託して「悪」について考えるという、いわば作者の考察文、論文のような側面がとても強いと思います。
地の文などでも多くのページがそれに費やされていますし、「悪」についての考察を熱心にするあまりに、「西の魔女」を主役としたファンタジーとしては山が薄いところもあります。
(例えば、エルフェバが自ら「魔女」と名乗るようになった決定的内因動機、魔法使いが恐れるに至った経緯、魔術が使えるようになった経緯、この作者が描くオズの国でどの程度の脅威だったのか、などは文中ではほとんど描かれていません。
ただ、これはオズの物語があまり知られていない日本での話で、国中に浸透しているようなアメリカではあまり問題にされないのかも知れませんが。)
しかし、一方で、魔女であるエルフェバの、家族や恋人や社会や友人や、いろいろなものに対する悩みや失望、のっぴきならない現実の中で、あえぐように行きつ戻りつするような様は、まさに日々魔法も使えない現実の中で右往左往しながら、心を焦がし、魂を絞りながら、少しずつかじる様に人生を生きている、現実に生きる人間の姿そのままです。
そういった意味で、この小説の伝えるメッセージは重みがあり、エンターティメントとして華々しく昇華されたミュージカルとはまた違った味わいがあります。
哲学的な地の文が多いので、退屈するところもあるかも知れませんが、いろいろ考えさせてくれる小説です。
ただ、ファンタジー小説としては、ストーリー展開というか、話の密度に物足りなさを感じますので、私としては☆3つです。
また、殺人や情事など、かなり大人な内容が詳しい描写で含まれていますので、子ども向けではない事だけ強調しておきます。。。
言いたかったことはこの本にある
★★★★☆
ミュージカル「Wicked」の原作となっているため、比較されがちですが、私はひとつの物語として、とても楽しく読むことができました。
ファンタジックなストーリーを期待されている方は、あまりに現実的な登場人物に幻滅するかもしれません。
登場人物だけではなく、オズの世界そのものが夢や魔法のキラキラした世界ではありません。
嘘や嫉妬や大人の都合が存在する、まさに現実の世界にも共通する世界でのお話しであり、大人のジョークや現実社会の皮肉などが散りばめられています。
他のレビューワーの方もすでにおっしゃってますが、ミュージカルとは内容やキャラクターの設定などがだいぶ異なります。
ミュージカルと小説、それぞれを別の作品として楽しめる方にお勧めします。
読みにくい文章、退屈なストーリー
★☆☆☆☆
原文のせいなのか訳が下手なのかわかりませんが文章が読みにくい上に
主人公エルファバの内面や性格の描写が雑で入り込めませんでした。
「オズの魔法使い」の登場人物たちがまるきり魅力の無いものに書き換えられてしまっているので
「オズ」の世界が好きな人は読まないほうが良いと思います。
別物として読むとしても、これはあまり面白いものではないような気がしますが・・・。
ミュージカルに期待
★☆☆☆☆
四季のミュージカルのチケットを購入し、これから見るにあたり、「予習」と思って読んでみました。私自身が、翻訳物が苦手なせいもあると思うのですが、読み進めるのにとても時間がかかりました。ストーリとして、全く楽しめなかったのです。これだけの物語を上下650ページも費やす必要があるのか疑問です。
ほかの方のレビューによると、本書と舞台は全く違うようなので、舞台に期待したいと思います。
ミュージカルを見るより前に読んで欲しい
★★★☆☆
他の方も仰っているように、ミュージカル版の「Wicked」をすでにご覧になっていて、
しかもそこに描かれているエルファバや世界観が好きという方にはお薦めいたしません。
ミュージカル版のエルファバは、観客にとって魅力のある心優しいヒロインですが、
この小説に出てくるエルファバは、私利私欲もある、もっと人間味溢れる普通の女性です。
本当なら手に入れられたかもしれない幸せを、その不器用さの為に掴み損ねてしまい、
そのままズルズルと不幸という名の泥沼にはまっていく彼女の姿はあまりにも切なく、涙を誘います。
また、ミュージカルはフレミング監督の映画版「オズの魔法使い」のお伽の国のイメージを強く残していますが、
この小説のオズの国はもっとドロドロとした世界で、子供の頃に思い描いた夢の国ではありません。
しかし、あのファンタジーからよくぞここまで物語を展開させたものだと驚かずにはいられません。
ミュージカルの原作と思わず、オズの世界を借りたまったく別のお話として読むのが良いと思います。
“普通の女性がなぜ悪い魔女になったか”だけをテーマとして読むと、とても面白いと思います。
もしくは、先に原作を読んでからミュージカルをご覧になるというのも良いと思います。
原作の悲劇の女性エルファバへの切ない気持ちが、ミュージカルを見て癒されるかもしれませんから。
もしかしたら、ミュージカルの脚本家も原作のエルファバを救いたくて、あのようなストーリーに変えたのかもしれませんね。