類書とは一味異なるユニークな視点
★★★★☆
いわゆる「野生生物問題」の事例集として見るならば、岩波ジュニア新書の『生きものたちのシグナル 』など、他にも類書は多い。本書の事例は山林のサル、シカ、クマ、イノシシ、それに外来のアライグマとヌートリアだけだから、むしろ広がりには欠ける。(ただし各々の分析は詳細で、非常に勉強にはなる。)
しかし本書の最大の価値は、これらの野生生物の問題を、単に現在の我が国の自然環境や社会の問題として取り扱うのではなく、縄文時代に遡る我が国の生活文化の歴史的な流れの中に位置づけてその意味を問い直し、さらに野生動物を中心に考えるよりもむしろ、その野生動物に相対する地域住民の心的内面へと踏み込んで考察してゆくところだろう。通常、野生生物問題は自然科学系のアプローチを中心に、社会学的な視点が重ねられて語られることが多いと思うが、本書では特に、野生生物に相対する人間の側の文化や心理を掘り下げて行くことで、この問題を我が国の文化の問題として、より一段深いところに位置づけようとしていると言って良いのかもしれない。野生生物を入り口に、むしろ人の心や文化の問題に迫って行こうとするのは、さすが京大霊長研の伝統が生きているところか(笑)。
いわゆる「里山」を「人と動物との緩衝地帯」と捉えるのではなく、むしろ「入会地(=人と野生動物とが共有して利用する場所)」と位置づける発想も欧米にはないもので、我が国独自のワイルドライフ・マネジメント理論への可能性を感じさせる。「獣害を契機に地域に活力がよみがえった」という事例が増えることを期待すると書く本書は、単に野生生物の問題が起きる「原因」が複雑で、多様であることを教えてくれるだけではないのである。その「解決」のあり方もまた実に多様で、様々な可能性があることを示唆してくれる。極めてユニークで、また有益な本であると思う。
猿が増えすぎると
★★★★★
田舎に行くと猿が道を歩いていたり、熊が出てきたり、北海道ではキタキツネが歩いていたりします。
見ている分には可愛いのですが、増えすぎて農作物を荒らすようになると公害になってしまいます。
欧米ではワイルドライフ・マネジメントと言う考え方があるそうです。
個体管理、生息地管理、被害管理をしっかり行うと言う考え方です。
個体が増えすぎると被害で出てしまうので、日本でも個体管理のために野生動物を食用に供する事を提案しています。
狩猟期間も含め天然資源を有効利用するために考えて見る時期なのかもしれません。
ただ野生の動物を守るのでは無く総合的にどうしたらいいかを考えさせられる一冊です。
面白くてためになる
★★★★★
急増する獣害に現場で立ち向かう兵庫県の研究者らが、
サル、シカ、イノシシ、クマ、外来種の生態を分かりやすく解説。
日本人の動物観の変遷、里山の荒廃、農林業の衰退など様々な原因で
害獣化する哺乳類と人との攻防が生き生きと描かれています。
鳥獣対策の現場に携わる方はご存知のことばかりかもしれませんが、
一般向けに分かりやすい言葉で書かれた本書の価値はとても高いと思います。