マンハッタン地方検察庁性犯罪訴追課の元検察官が描く、迫真のシリーズ作品。その魅力のひとつは、観光客はもちろん住人でさえほとんど目にすることのないニューヨークの暗部を見せてくれるところにある（『The Deadhouse』）。今回はニューヨーク・シティーの文化の殿堂ともいうべきメトロポリタン美術館、自然史博物館、クロイスター美術館を舞台に、封印された扉の奥へと読者をいざなう。

   ひとりの学芸員が殺害され、ミイラ化した遺体が、国外へ運び出される寸前の古代の石棺から発見された。地方検事補アレクサンドラ・クーパーは、パートナーである警官のマイク・チャップマン、マーサー・ウォーレスとともに、カトリーナ・グルーテンが故郷南アフリカを出てからニュージャージーの埠頭で遺体となって発見されるまでの足取りを追う。途中、現代的なミステリーに古代の謎が絡み、クーパーたちは狂気に満ちたニューヨーク美術界をも目の当たりにすることに。

   フェアスタインのスリラーにはしっかりとした筋立てと丹念に描かれた登場人物、歯切れのよい会話とともに、徹底的にさらけ出されたありきたりでないマンハッタンの姿がある。著者が専業作家となるべく退官したことは地方検察庁にとっては損失だが、ミステリー・ファンにとっては大きな利益だ。（Jane Adams, Amazon.com）