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皆月 (講談社文庫)

価格: ¥660
カテゴリ: 文庫
ブランド: 講談社
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ヤクザのスパイスが効いた名作 ★★★★☆
花村萬月の小説はこれまで『ゲルマニウムの夜』しか読んだことが無く、本作が二冊目だった。『ゲルマニウムの夜』は文句なしの名作だったが、本作も名作だ。性的描写がやや過剰であり、物語の展開も古典的ですらあり、『ゲルマニウムの夜』と比べると芸術性は低いのだが、どんな人間にも価値があるということを伝えるという主題は実に明確だ。また、本作を語る上で欠かせないのが、ヤクザの世界が描かれていて、それがスパイスとして実に効果的に作用しているという点である。主人公の義弟アキラをはじめ、複数のヤクザものが登場するが、ヤクザの世界の暴力性とある意味での哲学性、人間性が本書の主題を引き立てている。文章も平易であり、空き時間に気軽に読めるのもよい。
刺激的で面白いのにチャチじゃない ★★★★★
スケコマシ、やくざ、ソープ嬢、セックスと暴力と追跡と悲哀。小説を素数にバラしていくとそういうもので構成されている。それらを組み立てて描かれるのは、コツコツと貯めた金を全て妻に持ち逃げされた情けない‘オッサン’の叙情的な冒険である。

うらぶれた中年の主人公は公衆便所でマッチョなゲイの若者にワークブーツで前歯を折られ、逃げた妻の弟のヤクザものとたどたどしい労わり合いを交わし、その義弟に引き合わされた年若いソープ嬢の彼女と痴態の限りを尽くしながら、もう誰も望んですらいない妻の追跡を続ける。

お話としてはそういうことなのだが、実は花村萬月という作家にとってプロットは全く重要ではない。むしろ合理的、あるいは論理的な起承転結を拒否したところから小説はスタートしている。

愛しながら憎み、喜びながら泣き、怒りながら悲しむ。そうしたアンビバレントなことごとを緻密に描写していく様は超越したリアリズムである。女房に逃げられたばかりの中年男が何故ソープ嬢と恋に落ちるのか、ヤクザもので下品な逃げた女房の弟と何故家族愛を持てるのか、そうした‘オッサン’の心象風景を丹念かつ緻密に描いて作品は出来上がっている。

しかしながらそうした‘デッサン力’がいかに高かろうとも、そこに出来上がる一幅の絵が人の心を打たないことには、絵としての価値が無い。そして実はその意味でこそ真にこの作品に高い価値があると言えるのだ。

上質な文章に支えられて確かな輪郭で仕上げられた陰影は‘生きる’リアリティを鮮烈に描き、質の高い大衆文学となり得ている。簡単に言えば「刺激的で、面白いのに、チャチじゃない」

読んでいない方には是非。
あまりにもリアルな心情描写 ★★★★★
妻に逃げられた不細工中年男。
その男が変貌していく過程があまりにも切なくて泣けた。
人は皆寂しい。
寂しいから誰かに依存する、強がってしまう。
寂しい思いをしたくないから、本当のことは言わない。
その方が色々気にしなくて済むし、楽だ。
でも楽ばかりしていると、いずれ本質は離れていってしまう。
それを取り戻すのは大変なことだ。
本当のことを言うには勇気がいる。

自分のことを書かれているような気がした。
読みながら何度も赤面した。

愛やオリジナリティや自己表現を揶揄した素晴しいハードボイルド ★★★★★
練りに練られた文章はエンタメと言うより、
純文学と言いたくなる人もいるかもしれないが、
読者を置き去りにしても自己表現を追求する
糞純文学とは違う素晴しいエンタメである。
ハードボイルドの主人公は、
酒飲んで女抱いて暴力を振るわないといけないので、
何も出来ないヘタレよりは、
悪い事をやりまくる悪漢に近くなるが、
本書は正義と悪、我慢と自己表現の匙加減が素晴しい。
アウトロー社会に関係することになるが、
主人公は妻以外に女を知らなかった
真面目な元サラリーマン(CAD技師)なので、
アクションが滑りまくって、
かっこ悪いのにかっこいい!というのがたまりませんわ!
暴力沙汰に巻き込まれても、もちろん敵に叩きのめされるw
歯を折られ40代で入れ歯人生ww。
そんな主人公であるが、やくざに敬服されるようになる。
何度地に這い蹲ろうとめげずに立ち上がってくる根性に敬服などという単純な話ではない。
逃げた妻を捜す話だが、
よりを戻す為でもないし、復讐する為でもない。
人にとって一番大事なのは生きる姿勢だと勉強になる感動作品。
セクースシーンが多過ぎるのは欠点だが、
悩む若者を救うバイブルとして有効だと思う。
自己表現出来ないひきこもりのうざいオタクにも、
表現が激しすぎて人を殺してしまった不良にも、
本書は救いになると思う。
本で救われる事に気づかずに、
自分一人で内省して悩んだり、
外へ向かって暴れたりする、
未熟な若者はほんと可哀想。
過去の事はいいんだよ。
誰も助けてくれなくてもいいんだよ。
救いは本の中にあるのです。
漢字そのものの中にもあるのです。
せつなさと再生 ★★★★★
まじめ一徹でひたすら誠実に誠実に生きてきた男。
若い妻を迎えて、幸せをかみ締めながら平凡に目立たず生きていた。そんなある日妻は全財産をもって突然家出。
「みんな、月でした」と一言残して・・・
すべてを失った男の下に現れたのが妻の弟。
弟にあてがわれた風俗譲と三人の物語が始まる。
非常に切ない、一生懸命生きてきてやっと築き上げたささやかな幸せが瓦解した男。ヤクザとしか生きていけない傷つきやすい義弟、風俗上として辛酸をなめつくした純粋で一途な女。
そんな三人が心の傷をなめあうかのように生きていく、しかし、彼らはとてつもなく逞しい。
人間の逞しさと絆の深さ、そしてせつなさの中に暖かさをかんじるような物語。
最近の小説は個性に走り、設定がめちゃめちゃだったり、構成や人物描写が破綻してしまうものが多いが、純粋な文学作品として非常に質も高く、物語のよく出来ている。
そして「みんな、月でした」の謎が解されるとき、うならされる。文章が上手いから読みやすい、人物描写が妙だから引き込まれる。
おそらく花村萬月の中で最も優れた作品だと思う。