坂東真砂子は高知県出身の作家である。つい先日も高知新聞にスローフードとナショナリズムについての論考を寄せていた。同紙に小説の連載もしている。この作品は彼女のこれまでの土俗ホラーとは一線を画する官能小説集である。「幼児性愛」など所謂禁断の性を扱ったものも含まれているが不思議に卑猥な感じはない。イタリアを背景にしたものが5篇、どれも南欧の地でファンタジーを解放させる日本女性の微妙な性意識がスタイリッシュに描かれる。男性を主人公にしたものは2篇だが、結局いずれも女性が主導的役割を果たす。
今後人気作家による官能小説は流行になるとふんでいるが、これはまずまずの出来だ。問題は、どれもが似たような展開の話で、読後感がほぼ同じであるということと、若干オリジナリティーに欠けるところであろう。精神と肉体を取り巻く人間心理の深奥に迫るというところには程遠く、それは今後に期待したい。