クリスティーナ・シュワルツのデビュー作は、沈黙と禁欲という、失われた2つの「美徳」を主題にしたサスペンスだ。第1次世界大戦とともに広まったインフルエンザ騒動直後の1919年から物語は始まる。当時、ウィスコンシン州の小さな町にも電話や自動車、ダンスホールはあったが、人々はあいかわらずモラルに縛られていた。そんなところに1人の若い女性がいる。ルター派の農家の娘であるアマンダ・スターキーは、相手がカトリックであることを理由に、近所に住む男性との結婚をかたく反対され続けていた。
数年後、ミルウォーキーで看護婦として働いていたアマンダは、悪い男にもてあそばれる。これを恥じたアマンダは神経衰弱に陥り、実家の農場に戻るのだった。だが、1年もたたないうちに、愛する妹マティルデが謎の溺死を遂げる。ほどなく戦地から戻ってきた妹の夫カールの目に留まったのは、娘のルースから離れようとしない義姉アマンダの姿だった。彼女はマティルデの死について何も語ろうとしない。アマンダは、とうの昔に両親にも死なれていた。「私が両親を殺したの。初耳でしょう?」
私が両親を死なせたの。私はちょっと疲れていて、軽いせきが続いていたわ。過労と睡眠不足のせいだと思って、ちょっと家に戻った。田舎で何日間か休養しようと思って。スイートコーンとラズベリーの収穫の時期に。私が町からお土産に持ち帰ったのは、美しいリボンとアンブローシャのチョコレート2箱、そして、死の贈り物だった。そう、私はインフルエンザを母にうつしてしまったの。そして母から父にうつった。順序は逆かもしれないけれど。